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□In Side You
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少しだけ年の離れた幼馴染が居る。

自由奔放で今だけを大切にしているような生き方の彼女は、堅実とは程遠い生活をしている。
時折「先生〜!今晩だけ助けて」と汚れた顔でやって来るが、彼女が何処で何をしてそうなっているかは定かではない。

そんな彼女を放っておく選択肢は持ち合わせていないので、甘えられるがまま彼女を受け入れる私は差し詰め良い金蔓としか思われていないのだろう。
それでも良い。
ハルが気紛れでも側に来て笑うのなら、私は彼女を守ろうと誓った。




「せんせ〜、もう髪の毛乾いたのにまだ横になっちゃダメなの?」

「どこが乾いてるのかな?まだケアをしていないだろう。ほら、何処で何をしてそんなに傷んだか分からないけどちゃんとしないと」

「ぶ〜ぶ〜!」


お風呂から上がり、顔を整えただけのハルはソファーで胡座をかき不満を隠さず口を尖らせた。
幼い頃から何も変わっていないその姿に小さく笑うと「先生はそんなに長くても綺麗な髪の毛だよね」と言って私の髪を一房手にしてまじまじと見つめる。

いつしか私の事を名前で呼ばなくなったハル。
仕草一つ変わらないと云うのに唯一変わって欲しくない物が変わって行く。


「ハルのように危険な事はしていないからね」

「……バトルが危険じゃないわけないじゃん」

「無差別に襲われるわけではないだろう?」

「私だって無差別に襲われてるわけじゃないよ。勝てそうな奴にしか挑まないし」


最初より指通りが良くなった髪の毛を撫でながら微笑むと、更に不満そうな顔をしたハルに「その勘が当たった事なんてないだろう」と茶化すように告げた。


「そーだけどさー」

「それに懲りて大人しくする気はないのかい?」

「ないよ。今やりたい事を全力でやってこそ私だもん。どうせ振り返れば後悔する人生なんだから我慢なんて馬鹿らしいし」


確乎不抜な人生観を持つハルに私の言葉は届かない。
今彼女と時間を共にする相手のように、どこまでも彼女に付いて歩めば届くのかもしれないが私にそれは出来ない。
だからせめてハルの拠り所として居たいと願う。


「…そうだね」

「まあ、でもたまに全額無くなると後悔するけどね」

「…無くならない努力をしようか」

「ごちゃごちゃ考えるとツキが逃げちゃうんだよ〜」

「…はぁ」

「ため息はツキを逃がすよ!あ、先生が逃がしたツキは私が貰えば良いのか!」


そしたら負けなしかも〜!と無邪気に笑う彼女を見ていると、今すぐその自由を奪いたいと阿漕な一面が顔を出す。
拠り所として居るだけで良いなんて綺麗事でしかない。
本当は、今彼女の一番側に居る相手に取って代わりたいと常々腹に据え兼ねていた。

そんな醜悪な側面を見付けられないハルに、早く気付け…一生気付くなと矛盾した感情が巡る。


「先生…?」

「…ああ、すまなかったね。最後のケアをしようか」

「お願いしまーす」


薬液をつけた手でハルの髪を梳いてゆく。タオルドライだけの全く乾いていない髪ならゆっくりと深くまで浸透していくだろう。


彼女の自由を手折るのは容易い。
そして閉じ込める事も。
今を自由に動き回るのは、いつか私が彼女を閉じ込めると知っているからかもしれない。










帝統が出てこない……
けど、一応彼女の側に居るのは帝統ということで。
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