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□三郎君が学校に来ない理由
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平日の昼。
今日は依頼もないし、ラノベの新刊を読むかと部屋で本を手にした時。
「ごめんくださーい!」と元気に挨拶をした女性の声は、俺の耳にしっかり届いたが疑問符が浮かんだ。
やけに高く、子どものような声だったような…まさか依頼に来たわけじゃないよな?平日の昼だぞ。
とりあえず客には変わりないだろうから「今行きます」と声を掛けて玄関に向かった。そしてドアを開けて声の主を確認すると、そこにはスーツ姿の小柄な女性が立っていた。
俺と目が合うとにこりと笑い「初めまして。私、山田三郎君の担任の高成と申します」と自己紹介した。
「さ、三郎の担任…の、先生…?」
「はい。最近学校に来ていなかったので様子を伺いに参りました」
ニコニコと効果音が聞こえてきそうな程笑顔の高成先生。
こう言ったら失礼だが、先生と言うか大人に見えねぇ…と思いながらとりあえず家の中に案内した。
そして、さっきの声に反応した三郎本人が顔を見せたのでこっちに来るよう目で合図する。
すると勢い良く首を横に振られた。
何でだ?来いって。
絶対に来たくないのか柱にしがみついて首を横に振る三郎は、担任から逃げるよう彼女の死角に上手い事入りながら様子を見ている。
…そんなに気になるなら姿見せりゃいいだろ。
三郎の行動が不可解で眉を顰めると、高成先生が俺を見上げて「三郎君とそっくりですね」と笑った。
「えっと…それは目とかって事ですか?」
「何て言うんでしょう…パーツがかな?あ、整ってるところとか表情も勿論似てますよ」
「……パーツ」
「突然すみません。ふとした表情や仕草が似ていたので、流石ご兄弟だなと思いましてつい口に出してしまいました」
朗らかに笑った彼女に少し照れると、柱の影で顔を真っ赤にして蹲る三郎が見えた。
……こっちに来たくなかった理由が何となく分かる。
「あの、それで三郎君は…」
「え、ああ。三郎は…」
そこで照れてるとは言えねぇし…。
チラッと様子を見ても、未だ蹲り手で拒否を示しているので「今ちょっと外に出てるんすよ」と答えておいた。
「そうですか…体調が悪くて休んでいたわけではないんですね?」
「そう、っすね」
三郎を心配して来てくれているこの人に嘘をつくのは申し訳なかったが、本人が会いたくないんじゃ無理に会わせるわけにもいかない。
とりあえず体調は悪くないし暫くしたら行けるから安心してくれと伝え、帰って貰おうとすると「三郎君、クラスであまり馴染めていなくて…」と深刻そうな顔で言われた。
…それは多分、クラスの奴らにも二郎に接する時と同じようにしたんだろう。
大人ならその憎たらしさも可愛いと思えるだろうが、同い年や年が近い連中には思えないかもしれねぇ。
だから先生が心配して来たのか。
変な時間帯にやって来た理由が何となく分かり、高成先生が三郎をちゃんと見ていてくれたんだなと嬉しく思えた。
「先生が見ていてくれるんなら大丈夫ですよ」
「え?」
「これからも三郎の事よろしくお願いします」
「……勿論です。って言ってもいつもお世話になっているのは私なんですけど」
「…え?」
「私、こんな見た目なので生徒にナメられやすいんです。それでおどおどしてたら三郎君が一喝してくれて」
この人がおどおどしてる姿が容易に想像できる。
が、多分三郎が言ったのは一喝じゃなかったのだろう。
柱の影に居る三郎が少し顔を上げて申し訳なさそうにしながら先生を見ていた。
誤解されやすい言い方なだけで、この人にはちゃんとお前の言葉が届いたって事だろ?
だったら良いじゃねぇか。
「カードゲームも教えてくれたり、三郎君が難しい言い回しをするので語彙力も高まりました!」
「……三郎」
「本当にどっちが先生だか分からないですよね」
高成 先生の捉え方がポジティブなのか分からないが、きっとこの人には三郎の悪態も毒舌も通用しないのだろう。
そして彼女からは感謝と賞賛が返ってくる。
だから三郎は彼女に会いづらいのだろう。でも誉められたいには誉められたいので様子を伺いには来る。
我が弟ながら物凄く面倒で可愛らしい。
まあ、それはそうとして三郎。
年上は敬えって言ってんだろ。
「高成先生、三郎が帰ってきたみたいなんでちょっと待って貰えますか」
「あ、はい」
「い、一兄っ!」
「こそこそ見てんならさっさとこっちに来い」
「いっいやだっ!離して下さい〜!」
「あ、三郎君!元気そうで何よりです!」
三郎メインのはずがほぼ出ず。