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□閉じ込めたいから日を改めた。
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昔から可愛いものが好きだった。
レース、花柄、ファンシーな物。女の子らしい服が似合うあの子。
自分には似合わなかった全てを持つあの子になりたかった。

でもあの子はアタシにいつも言う。
「嵐ちゃんが一番可愛いよ」と、人形のような小さな口で紡いでくれる。
その甘言に乗せられ、アタシは自信を持ち誰よりも美しいと思うようになった。
本当はアンタより可愛くもないのに…





▽ ▽ ▽



「嵐ちゃん、これ新作?」


高校生になった今も交流は続いている彼女、ハルがいつものように簡素な格好で部屋に来ていた。
同じ店の常連であるためハルの欲しい物をアタシが先に手に入れることが多い。
意図してやっているところもあるけど、ただ単に好みが似ているのが大きい。




「そうよ。この前行ったら新作が出てて、可愛いから買っちゃった」

「綺麗な色だしパッケージが可愛いもんね〜」

「ね〜!ハルちゃんなら分かってくれると思ってたわ」



新作リップを手に取り羨ましそうにしながら眺めるハル。
その目に今アタシの所有物が映っている。その事実が少しだけ気分を良くした。



「ねえ、付けてみない?」

「え?でも、まだ嵐ちゃん使ってないし…」

「人が付けてるの見るのも好きなのよ。ね!ほらほら、ここに座って」




アタシの提案に渋るハルを強引に向き合うように座らせた。
申し訳なさそうに見上げる目なんて宝石みたいにキラキラしているし、白くて柔らかそうな頬は少しだけ赤く染まっている。

お化粧の仕方はアタシが教えた。
アンタに似合うのはこの色よ、このやり方よと一つ一つ丁寧に。
ケアの仕方や用品も全部アタシが揃えて教えた。だから今更この子の唇に手を加えようと何ら不思議はない。




「ふふ、そんなに不安そうな顔してどうしたの?」

「…嵐ちゃんが気に入って買ったのに、何だか私ばっかり使ってるから」

「そうかしら?でも不思議とそれを見てるとアタシよりもハルちゃんに似合いそうな気がしてくるのよね」

「前回もそう言って使わせてくれたよ…」

「良いじゃない。アタシはきっとアンタを可愛くするのが好きなのよ」



ほら、少しだけ上向いて。
顎を持ってキスするように傾けると「嵐ちゃんのが可愛いのに」と口を尖らせたハルに「このままめちゃくちゃにキスしたらどうなるだろう」と過った。
きっと泣いて嫌がるに違いない。
アタシはそんなことしないって思ってるこの子は、アタシが男だって忘れているから。

綺麗な唇にアタシが選んだ色のリップを滑らせる。
艶めいた唇を馴染ませるように一度閉じさせてみると、恥ずかしそうにしながら「そんなに見ないでよ」と笑った。

可愛くも女性らしくなったハルに、閉じ込めたい欲求がまた沸き上がる。
これは全部アタシが作り上げたもの。
誰にも渡してやらない。




「……やっぱり、この色はハルちゃんのが似合うわね」

「ありがとう。今度は私が嵐ちゃんに似合う色見付けてくるね」

「楽しみにしてるわ」



どんどん綺麗に仕上がるハル。
でもまだだ。
まだ手を出してはダメ。
一番綺麗で可愛いこの子を閉じ込めたいから、今日はこのまま帰してあげる。

 
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