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□生きている理由が解らないから死んでみたい
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▽ ▽ ▽



結局左馬刻が何をしたいのか分からず数日経って、高成ハルが理鶯の所へ勝手に連れて来られた。
これ、立派な犯罪だろ!と怒鳴りたかったが彼女には何の抵抗も見られないので「まあ、良いか」とため息を吐いた。
後でごちゃごちゃ言ってきたら脅せば良い。



「……彼女を引き取るの、本気だったんですね」

「俺様が嘘なんざ吐くわけねぇだろ」

「冗談であって欲しかったですよ。正気の沙汰とは思えない」

「そりゃコイツに言えや。自殺なんざ理解出来ねぇ」



未だ動けない彼女を無理矢理引っ張り出した左馬刻は、理鶯の所にスペースを作りそこへ彼女を閉じ込めた。
痛々しい傷ばかり残る体は回復するのに時間が掛かるだろう。
それを初めて見た理鶯は「傷に効く飲み物を出してやろう」と言って怪しい飲み物を用意していた。
……それ、飲ませたら死ぬぞ。まあ高成ハルは本望か?


自殺の経緯はあの日、あの時に左馬刻と神宮寺寂雷が聞いただけで俺と理鶯は知らない。
それが左馬刻をどう動かしたのかも分からないが、とにかく彼女を生かす方向で動いているようだ。



「おい、逃げようなんざ考えんなよ」

「……」

「大丈夫ですよ。暫くは動けません。それに…動けそうなら足止めの手はいくらでもあるでしょう」

「流石悪徳警官だな。考えることがクソすぎて反吐が出る」



左馬刻の言葉に何も反応しない彼女は虚ろな目で遠くを見つめたまま微動だにしなかった。
何が彼女をそうさせているのか、詳しく聞かないとこの状況に納得出来そうにない。

だから左馬刻を外へと連れ出し高成ハルが何故自殺しようとしたのか問い掛けた。
すると、煙草を咥えた左馬刻が「銃兎、ソドムって知ってるか?」と大凡似合わない台詞を吐き出した。




「ソドム?……旧約聖書のか?」

「どんな話だ」

「は?何だ急に」

「アイツが言ったんだよ。ソドムを滅ぼしたように私も殺してってな。だから何なのか知りてぇだけだ」

「…ソドムは町の名前だ。住んでいた男達が悪事ばかり働き生産性のない淫に耽ったことで神の怒りを買い、使わした天使すら襲おうとした為に滅ぼされた」

「生産性のない?」

「無駄なことばっかやってたってことだ」

「……無駄。だからアイツ…」
 




俺の説明を聞いて何となく納得した左馬刻は「なら、やっぱぶっ壊してやらねぇとな」と凶悪な笑みを浮かべる。

おいおい、女、子どもには手を出さねぇんじゃなかったか?
今にも高成ハルを殺しそうな雰囲気に「落ち着け」と声を掛けると「うるせぇ!」と怒鳴られた。意味が分からねぇ。




「ったく、彼女をどうする気だ?まさか殺してやるのか?」

「はあ?何バカなこと言ってんだ?テメエが死ぬか?」

「じゃあ臓器でも売るのか?それぐらいしか使い道ねぇだろ」

「…生かすんだよ。アイツの全部をぶっ壊して、生かしてやる」

「はあ!?…正気か?」




まさか本当に左馬刻からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったので驚いた。
でも、彼女の全てを壊したらきっと生きているとは言えないだろう。それでも、今の彼女を壊して生かそうとするらしい。





「あのバカに突然失う痛みを思い知らせてやる……」





それは優しさか恨みか。
何の感情も込もっていない声で呟いた言葉は俺の背筋を震わせた。



 
自分の意味を見出だせない彼女は、生産性のない行為を繰り返すソドムの奴等と同等と言いたかったのだろう。
だから死んでも構わない。それか殺されても仕方ない。

左馬刻が彼女の求める神には成り得ないが、少なくとも彼女を最も苦しめる形で神の罰は下されるだろう。


 
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