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□残り1.000円の行方
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世の中には無意味な事が多すぎる。
今日も契約が取れなかった案件についてハゲ課長に散々嫌味を言われ、挙げ句の果てには「君はいつも辛気臭い顔をしているからいけないんだ」と容姿についてまで文句を言われた。
俺の顔が辛気臭いのは事実だが余計なお世話だ。
そして極めつけに、そんな疲れた俺に空気の読めない後輩が「観音坂さん、次の飲み会幹事やって下さいよ」と面倒事を押し付けてきやがった。

次の飲み会って何だよ!勝手に行って来いよ!
つか何でお前は先に帰ってんだよ!
言えない文句が溜まりに溜まって苛立ちながらキーボードを叩くと「観音坂さん」と名前を呼ばれた。

この声は受付の高成さんだ。
こんな俺にもいつも優しく笑い掛けて「行ってらっしゃいませ」と言ってくれる天使のような人。
もう受付さんは皆帰ってる時間なのにどうして?と思いながら返事をすると、高成さんはいつもの笑顔で「今日もお疲れ様です」と言って部署の中に入って来た。




「ど、どうしたんですか?こんな時間に」

「次の飲み会の幹事、観音坂さんがやるって聞いて」
 
「あ、ああ。そうですけど…高成さんも参加されるんですか?」

「今回は、はい。私も幹事になったので参加します」




宜しくお願いします。と頭を下げた高成さんに一瞬理解出来ず固まった。
え?何て言った?
幹事になった?高成さんが?
そんな幸運あるわけない。俺の聞き間違いだ。今回も全部丸投げの後輩が幹事仲間のはずだ。
高成さんの言葉が信じられず上の空でいると「観音坂さん多忙だと思うんですが」と申し訳なさそうに数枚のプリントを差し出した。





「お店の候補挙げたので、お手すきの際に確認お願いします」

「え!?」

「え?…あ、もしかして難しいですか?でしたらこちらで全て処理致します」

「え!?」

「ん?」




急いでそれを受け取ったは良いが理解出来ずに聞き返すと高成さんは小首を傾げて俺を見つめた。

……可愛い。じゃなかった!やっぱり夢じゃない。じゃあ本当に…一緒に幹事やるのか?
無意識に溜めていた唾をゴクリと飲み込んで「幹事、宜しくお願いします」と言うと高成さんはニコリと笑って「はい。宜しくお願いします」と返してくれた。

そして、俺のこの発言が「俺は忙しいので後は全部任せます」の意味で捉えられていたことを数日後に知り、謝り倒すことになるなんてこの時は夢にも思わなかった。何様だ!






飲み会当日。
場所は高成さんが候補に挙げてくれた所で決まり、予約も何もかも高成さんがやってくれて俺は今回何もしなかった。
何で手伝わなかったんだ!と嘆いても高成さんは「観音坂さんお忙しいから」と言って何もしなかった俺を許してくれる。まさに天使。

お互い幹事と言うことで席も近いし、普段あまり話せないから少しでも話せたら…と思っていたが彼女と話したい奴は俺以外にも当然居て、今は営業のイケてる後輩が彼女を口説いている。
他の女の子も同様に口説かれていて、俺やイケてない奴らは男同士か一人で飲み進めていた。




「今回ハルさんがこのお店見付けてくれたんでしょ?センス良いよね!」

「観音坂さんが決めて下さったんですよ。私は予約しただけです」

「そうなの?でも全部一人でやってなかった?」

「いいえ。お忙しい中手伝って頂きました。ね?観音坂さん」
 



そう言ってニコリと俺に笑い掛けた高成さん。突然すぎて全然話聞いてなかった。
とりあえず俺もニコリと笑っておくと、高成さんを口説き中の男に睨まれた。何でだよ。


その後も結局ソイツが彼女を独占したお陰で全く話せず、ついに飲み会終了となった。
参加した意味全くなかったな…。
はぁ、と大きなため息を吐いてお会計のためにさっき集めた金を数えていると後ろから名前を呼ばれたので振り返る。この声は高成さんだ。





「集計ありがとうございます。二次会やるみたいですけど、どうしますか?」

「いえ…え?」

「ハルちゃん!二次会行こうぜ〜!」

「……お会計、しておくので行って良いですよ」




折角声を掛けてくれたのに、再びあのイケてる後輩が高成さんを呼んだ。
しかも馴れ馴れしくなってるし!

折角一緒に幹事やってるのに全然話せなかったし、半ばやけくそで「行って来いよ」的な言い方をすると高成さんは少し間を空けてから俺の横に立った。
……え?

 
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