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□なにしやがる!
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柱合会議に呼ばれ、その内容に激怒した。
鬼を殺す隊員であるはずの1人が、鬼を連れていると言うのだ。
ふざけるな!と静かに怒りながら屋敷へ向かうために支度をしていると、後ろから「風柱様、何処へ?」と呑気な声を掛けられた。


「ああ゛?」

「任務ではなさそうですね?」

「…お館様の所だ」

「それにしては荒れていらっしゃる」


いつもはウキウキしながら向かうのに、と顎に指を当てて考えるコイツは隠のハル。週に数回こうして訪ねて来るのだが、この女には毎回振り回されて仕方ない。
今も「あ、もしかして前髪キマってないから不機嫌なんですか」とふざけた事を言いやがる。それに対しても腹を立てて「ちげぇよ!!」と怒鳴ると「じゃあ何なんですか」と逆に不機嫌になられた。意味が分からねぇ。
理由を話す気にもならず無視して家から出ようとすると「あ、話の途中ですよ」とすぐさま背中に投げ掛けられたが、それすらも無視して足早にお館様の元へ向かった。
アイツと話していると自分のペースが乱される。


屋敷に入ると、嫌な気配をさせた木箱を抱えた隠が目に入り「それは何だ」と問い掛けると「こ、これは」と狼狽えたので、その木箱に鬼がいるのだと確信した。


「そいつを寄越せェ」

「で、でもお館様のご命令で…」

「俺が持っていくって言ってんだァ!」

「ひぃぃぃ!す、すみません!!」


隠から木箱をふんだくり、片手で持ち上げると中で動く気配がした。
ちゃんと生きてやがる…。
そんな鬼を連れてるなんざ、鬼殺の意味が分からねぇ余程のバカなのか。
何で鬼殺隊に入った?鬼が憎いからじゃないのか?こんな物を背負って入隊した隊士の事情は知らないが、俺達が斬るのはまさしく今この手にある鬼だ。

それをお館様が知らないわけがない。だとしたら何故放置している?
お館様のご意向は窺い知れないし、このまま鬼を持っていても仕方ない。とりあえず集合場所に行くか。
涌き出す怒りをそのままに歩き出すと、箱を持っていた隠が「私達が運びます!」「風柱様のお手を煩わせるわけには!」とギャーギャー言っていたが、無視して他の柱が待つ場所へと足を早めた。何だって隠はこんなに騒がしいんだ。

集合場所である庭に出ると、1人の隊士が地面に転がっていて「人は襲わない」「一緒に闘える」と喚いていた。
その言葉で「あれがこの鬼を連れてるバカ隊士か」と箱を持つ手に力が篭る。
手元にあるのが鬼なら、俺の行動は決まっている。
コイツらに我慢なんて無理だと現実を見せてやるよ。


「鬼を連れてるバカ隊士ってのはテメエか」


声を掛けると、俺の手にある物を見て顔色を変えたソイツの目の前で怒りのまま箱に刀を突き刺した。
やめろ!と叫ぶがここからなんだよ。
コイツらは傷を治すために人間の血を欲する。俺の血なら尚の事我慢なんて出来ねぇだろう。
地面に転がした箱に足を掛け、何の躊躇いもなく腕を切って血を流した。ポタポタと木箱に垂れては中の鬼へと伝っているのだろう。中からはくぐもった声がした。

何を我慢してる?さっさと出てこい。
そう木箱を踏んでみるが、鬼は何の変化もなく静かだ。
まだ血が足りないのかと思い、新たに腕を切るため刀を構えると隊士から「やめろ!これ以上妹を傷付けるな!」と叫ばれたが構わず事を進める。


「さっさと本性を現せ」


そう呟いて笑うと、自分の後ろからダダダダっと騒がしい足音が近付いて来て「風柱ぁぁぁ!」と野太い声で呼ばれた。
…アイツ、あんなに野太い声が出せたのか。

普段と違う様子に一瞬止まったのが悪かった。
ハルは俺のすぐ近くに来ると腕を掴んで刀が動かないよう固定した。何しやがる!


「離せ!バカ!」

「離しませんよバカ!あんだけ切るなって言ってんのに目を離した隙に切りやがってアンタは自分の体が不死身だと思ってんですか!?不死川だけに!?」

「思ってねぇよ!!」

「だったら何で切るんですかねぇ!?痛いでしょうが!血が出るでしょうが!手当てすんの誰だと思ってんですかぁぁ!?」

「手当てなんざ自分でやらぁ!!」

「膿んで腐って死んでも知りませんよ!?」

「手当て位ちゃんと出来るわ!」


例えが気持ち悪いんだよ!と握られた腕を振り払うと、それに腹を立てたハルが持っていた包帯を投げ付けてきた。簡単に避けられるそれは、俺に当たることなく地面にコロコロと転がり解けて絨毯のように広がった。
それを見てハルは再び怒鳴り出す。


「何で避けるんですか!?」

「ああ゛!?避けんだろ!」

「手当て出来るって言ったから渡してあげたんでしょーがぁぁ!!」

「はぁぁ!?」


誰が包帯投げ付けてきたのを「これで手当てしろ」と受け取るか。ただの攻撃だと思うのが普通だろうが。

コイツの出現で本来の目的をすっかり忘れた俺は、結局お館様が来るまでこのバカと怒鳴り合っていた。
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