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□生きている理由が解らないから死んでみたい
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淡々と生きてきた。
自然の流れのように、人として道を外れることなく義務教育が終わったら高校へ通い、大学か専門かはたまた就職かの選択をし人並みに反抗期を迎え、犯罪も問題も起こすことなく年齢を順調に重ねた。


そう、重ねただけなのだ。
私の中身は空っぽで、何も残ってはいない。

これと言った取り柄もなければ特別美人でも可愛くもない。
何のために毎日起きて仕事して帰って寝てと生きる活動をしているのだろう?
何も持たない私にはこうして生きる価値があるのだろうか?


何かの本で読んだことがある。
世界には存在出来る数が決まっているのだと。
だから絶滅する動物や植物があって、その逆で急激に増える存在もあると。

細胞だってそうだ。
増えすぎたら悪性になるものもあって、自分達が助かるためにそれを排除しようと奮闘する。


全ては理由があるのに、私の毎日には何もない。
それは細胞にすれば悪性で、不必要な存在だから消えても問題ないと言うこと。
つまり、私は必要ない。




「……答えは出てたじゃないか」




人通りの多い交差点。
そう気付いたら、ヘッドライトが幾重にもなり夜になっても騒がしいこの場所で、まるで一人になったように音が消えた。




▽ ▽ ▽







「おい、何だアレ」

「倒木だろ。昨日の雨で荒れてるしな」

「良く見ろや」




理鶯の所へ行く途中、珍しく文句も言わずに歩いていた左馬刻が何かを見付けた。
昨日は記録的な豪雨だったし、山の中は滅茶苦茶になっているからその辺の木でも倒れたか何かしたんだろうと思っていると、左馬刻はそれを確認するために横路に逸れた。
咥え煙草から燻る紫煙がまるでついて来いと言うように俺の方へ伸びてきて不快だ。




「おい、左馬刻!」

「…………ちっ!おい銃兎よぉ、きっちり仕事しろや!」

「はぁ?おい、何処まで行く気だ!」





倒木だと思った物の真横まで近付いた左馬刻は、それを真っ直ぐ見下ろし「これのどこが倒木だ?ああ?」と悪態を吐いた。
そして未だ動かない俺に対し、倒れている物を確認しに来いと顔を傾けた。
面倒くせぇことしやがる…。
そう呟きながらなるべくゆっくり近付くと、左馬刻から10m離れた辺りでそれは倒木ではなく人だと分かった。





「……は?」

「ちんたら歩いてんじゃねぇよ!さっさと来いや!」

「…それ、人か?」

「それ以外何に見えんだよ」




一瞬止まった俺に痺れを切らした左馬刻が怒鳴ったが、構わずゆっくり歩くと「こんな森の中に捨てられんじゃタダ者じゃねぇな」と顔を歪めた。

ゴミのようにうつ伏せに倒れている人物は傷だらけで、薄汚れた服や顔には血の固まった痕が多数ある。
俺達が近付いてもピクリとも反応しないそれの体は有り得ない方向へと腕を曲げているし、呼吸すらしていないように思える。

なんて面倒な物を見付けてくれたんだ。
倒木と信じて気にしなければ見付けずに済んだのによ、と自分も咥えていた煙草を思い切り吸い込み溜め息のように吐き出した。




「おい、生きてるか?」

「無理だろ。ったく、ロクが出たんじゃ処理しなきゃなんねぇだろーが」

「…っ…コイツ、女か?」

「は?」




左馬刻が蹴り飛ばして生存確認をすると、引っくり返ったそれの顔が分かった。泥や傷で汚ならしいが、倒れているのは女性。
驚いた俺達が一歩引くと倒れている女性が少しだけ動き「生きてる!」と左馬刻と声を合わせた。




「急いで病院に運ぶぞ!」

「ああ…!」




怪我を触らないように急いで体を持ち上げると、僅かだが呼吸しているのが分かった。
急いで車まで走ると左馬刻が助手席に乗り込み「さっさと出せ!」と怒鳴る。
いや、先に乗り込んだならお前が運転しろよ!

 
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