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□残り1.000円の行方
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「お会計まだですし、明日予定があるので二次会は参加しません」

「……は?」

「……え?」

「あ、観音坂さん。こっち数えますね」

「ちょ、 ハルちゃん!」

「二次会楽しんで来て下さい。鈴木さんのこと皆待ってますよ」





俺がまだ手をつけていない方を握りいつもの笑顔を向けた高成さんは後輩鈴木を自然と店の外へと追い出した。
す、凄い。あんなにあっさり切り捨てられるなんて…。
意外と人気のあるアイツのあんな顔初めて見た。




「……よ、良かったんですか?」

「お邪魔でした?」

「そんなことないですけど…」

「……あれ?少し多いですね」




俺の言葉を聞きながら金を数えた高成さんはヒラヒラと一枚のお札を振った。
あれ?千円多い?

もう一度数えますね、と言って俺の分も合わせて数えた高成さんはサクサク数え「やっぱり多いですね」と千円を避ける。




「す、すみませんすみません!俺が多く受け取ったばかりに!」

「観音坂さんのせいではないですよ。一旦これでお会計しちゃいましょうか」




ニコリと笑って会計へ進む彼女の後ろをついて行くと本当に千円ぴったり多く、俺の手の中には余った千円が握られていた。
ど、どうしたら良いんだ。

ありがとうございました〜。と店員に見送られ店から出ると、二次会に行く連中は既に姿が見えずこの金の使い道が本格的に分からなくなった。
まだ居るなら渡してしまおうと思ったのに。

千円を握り店の前から動けずに居ると高成さんが「それ、私に預けてくれませんか?」と言って手を伸ばしてきた。
その小さな手に少しくしゃくしゃになった千円を渡すと「観音坂さんも共犯ですからね」と言ってニヤリと笑う。
いつもの笑顔じゃない、いたずらっ子のような笑顔にドキリとして見つめていると彼女は俺の手を引いて歩き出した。

そして近くのコンビニへ入り、一直線に酒売り場に行くと二本手に取り軽いつまみと一緒に会計を済ました。
残金はあっという間に数十円になる。




「あの、高成さん?」

「今日もお疲れ様でした。少しですけど飲み直しませんか?」

「…え」

「さっき、全然話せなかったし」

「でも、明日予定があるんじゃ」

「ああ、あれは嘘です」

「嘘!?」

「ああでも言わないと逃げられませんから」



ニコリと笑った顔はいつもの笑顔なのに言葉は彼女らしくない。
これは夢なのか?あまり飲んでないのに酔ったのか?だから自分に都合の良いような夢を見てるんだ。
でも繋いだ手はやけにリアルに感じるな。小さくてスベスベしてる。

すりっと親指で彼女の手の甲を撫でると「ふふ、擽ったいです」と可愛く笑った。…夢万歳!



高成さんに手を引かれるがまま歩くと、小さな公園へと辿り着いた。
遊具が数個と木製のベンチが一つの公園はきちんと街灯もあるし整備されている。
人通りは少ないし、都心なのに田舎のような静けさで不思議な感じがする公園に入ると、ベンチの両端に座り真ん中にコンビニで買った酒をトンと置いた。
……手も離れてしまい残念だ。




「はぁ〜やっと一息つける」

「…お疲れ様」

「お疲れ様です。もう、鈴木さんの話長いし自慢ばっかりだしホントつまんないのに何で相手が愛想笑いだって気付かないんですかね」

「……え?」




プルタブを開ける良い音を響かせながら後輩鈴木に対する文句を口にする高成さんは本当にうんざりした顔をしていた。

てか、今愛想笑いって言った?
衝撃的すぎて一瞬息止まったぞ。

高成さんの爆弾投下はそれだけでは終わらず、ごくごくとお酒を飲み進める度にエスカレートしていった。

 
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