夢を語って、青に堕ちる
□第1章
1ページ/3ページ
ブクブクブク
口や鼻から、肺に溜まった空気が出ていく音がする。
それはもうすぐ尽きそうだけど。
水泳だけが取り柄の美術部員カノンが、底へ沈んでいきそうな僕以外の男子2名を引っ張り上げているので、自分含め三人が手伝う。
光の方へ、グッと、水を蹴って、上へ、浮力を頼りに、水面へ。
あと十数メートル。
変な生き物たちが遠くにいる。
でかぁい、イカみたいなのとか、美人ではなさそうな人魚みたいなのとか。
あ、見られてんのかな。近付いてる?ヤッベ
あと十メートル弱。
先導している奴の背中が見えた。
背中に、黒いなんかが一本生えてる?
あいつ、堕天使かなんかだったのか。大分、無理がある翼だな。左翼か、心臓大丈夫か?それ。
あと、あと、ああ、数センチ!
ザッパァン
「「「ブワッハァ!ゲッホゲホッ、ゴホゴホ。」」」
思い返せば、本当に一瞬のことだった。
カノンに会いに行く途中の道でずぶ濡れの本人と遭遇して。話しかけても反応がなかったから、近付いて。で、僕らが立っていた橋が、濁流に飲まれた。
ああ、もっと急いでいれば。
カノンを連れてさっさとアオイの家にもどっていたら。
いっそのこと、午前中に行っていた方が。いや、そもそもずっと前からわかっていたのだから、そのとき何かしていれば。
グルグルとタラレバ、もしもの話が冷えきった脳を駆け巡る。
意味もなく空を見た。
空が青いわけはなく、曇天、いやめっちゃ土砂降りだ。めちゃくちゃ顔に当たる。イタタタタ。
「とりあえず上がろう!さ、さみいから!」
カノンがさけび、ブエックションと、まあ、なんとも女子とは思えぬくしゃみをぶっかましてきたのでとりあえず地上に上がるとする。
いいか、僕らはなぁんにも見てないんだ。
そう、なーんかいつの間にか変な湖にいました、とかなーんか草原の向こうに中世ヨーロッパ的な無駄にどデカイ城がある、とかマジで知らんし、見てない。うん、大丈夫。正常。おーけーおーけー。
嘘だろおい。
どうも、現実やらは無常のようであるらしい。
やっとこさ全員陸に上がって、サキとアオイが肩でゼエゼエ息をして、カノンとショウマがトウヤを起こそうと必死だ。
でも、僕は見た。
ナカガワイツキは、見てしまった。
真っ黒の服を着て、こちらを睨んでいる人を。
常識だろ?黒服は、悪人だっていうのは。