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□お酒に強い人
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「…何か言うことは?」


「すいましぇんれしたぁ…」


呂律の回っていない謝罪にくすくすと笑う。テーブルに突っ伏し、うぇぇ…と時折苦しげな呻き声をあげている。
1番女の子だからどうこうと言ってきたナワーブを負かしてやってスッキリした。心配して言ってくれてたんだろうけど、私は貴方が思っているようなか弱い純粋無垢な女の子なんかじゃないの。

ほぼ同時に潰れたマイクとウィリアムは既に床に転がり夢の中だ。


「イソップ、もう一杯。」


「じゃあ僕もお願いするよ。」


「俺も…。」


残っているのは飲んでないイソップを除いたイライとノートンと私だけだった。


「…やっぱり強いですね。名無しさんさんが強いのは以外でしたけど。」


イソップによって注がれていくお酒はもう何本目か、テーブルの端にいくつもの瓶が寄せられている。


「名無しさんは僕と一緒でザルだからね。」


「貴方はザルじゃなくてワクでしょう?イライ以外には隠してたんだけどね…。」


はははっと笑うイライを横目に注がれた酒をグイッと一気に煽る。
手っ取り早く酔うためのお酒だからか、やっぱりあんまり美味しくない。


「どうして?」


こちらを見つめるノートンの顔は少々赤いが平気そうだ。貴方もザルか。


「うーん、酒に強い女ってちょっといやでしょ?」


持ち帰ろうとして逆に負かされるなんてプライドズタズタだろうし、と続けると2人は確かにと笑う。

でも…と続けるノートンに驚かされた。


「俺は好きだよ。」


「…え」


普段寡黙で無表情なのが今はどうだ、にへらと子どものように口元を緩ませ笑う彼に心臓が一瞬大きく跳ねた。


「俺のペースに着いてきてくれる子なんてそうそういないし、2人でお酒を最後まで楽しんでそのまま…幸せな気分のまま一緒に寝れるなんて最高だと思うんだ。」


お酒入ったらめちゃくちゃ饒舌じゃないのノートン君…。いや、それより。


「どうしようイライ、後半言ってることただの下の話なのに全然下品に聞こえない。」


「奇遇だね、僕もだよ。」


彼の今の雰囲気がそうさせるのか、逆にアリなのか…?と共感してしまいそうになっていたのをイソップのジトっとした視線で押しとどまる。


「それでも、彼の考えも一理あるね。」


イライの方を見ると、グラスを片手に持ったまま虚空を見つめているように見えた。


「やっぱり飲むなら最後の一滴まで一緒に付き合ってくれる人がいたら幸せだろうな。」


「イライ…」


普段頼りになる彼だって悩みや弱みはある。人前でなかなか見せないだけで。
彼とお酒を飲んでいるとごくごく稀に彼の口からポロッと零れる言葉は、どこか儚く聞こえる。聞く度に彼自身が遠くへ行ってしまいそうな気さえする。

何度か一緒にお酒を飲んだときだって、次の日が試合だったり、金銭的な意味でもお互い程々に抑えていた。でも、きっと彼はどこか物足りなさを感じていたのだろう。

…考えてみればそれは私も同じだった。
周りに合わせると物足りない。だけど、自分のペースで飲むと最後に残るのは私1人。
自分と同じを求めている訳ではないけれど、最後まで一緒に飲んでくれる相手は欲しいとどうしても思ってしまう。
初めて見つけた同類のイライとだって、未だ本気で飲んだことがないんだ。


「お酒に強い人は、強い人の悩みがあるんですね。」


イソップの言葉に自分を含めた3人ともが頷く。

今までお酒に強い自分にマイナスのイメージしか無かったけれど、2人の言葉を聞くと案外そうでも無いかもしれない。


「お酒に強いで思ったんだけどさ、俺達勝敗つかないね。」


ノートンの言葉に同意すると同時に今まで一切触れて無かったことを思い出した。


「そういえば罰ゲームって結局何だったの?」


「最下位から順にバニーちゃん、メイド、女装、性癖暴露、好きなタイプの告白だよ。」


聞いた途端に押し黙ったイソップとノートンとは逆にサラッと言ってのけたイライの言葉に驚いた。


「なかなかえげつないね…特に下3つ」


ちなみに下位3つの期限は1週間と聞いてイソップがあそこまで必死になった理由がやっと分かった。


「本当に名無しさんさんには感謝してます。バニーと命令を逃れられればラッキーくらいに思っていたので…。」


「ふふ、それはよかった。」


にしてもノートンの言う通りこの3人じゃ絶対勝敗つかないなぁと考える。


「ねぇ、名無しさんの好きなタイプはどんな人だい?」


「え、私?」


イライに突然話を振られて戸惑う。罰ゲームよね、それ?


「だってイソップの性癖もタイプも聞いた所で分かりきってる。」


「…でしょうね。」


私の困惑した視線にノートンが答える。イソップは…うん、言わなくても分かる。
罰ゲームだし、代理の私が答える義理はないけど面白そうだからいいか。


「私のタイプはね、…__」


その答えを聞いた2人は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔に変わる。

…明日は休みだし、ハメ外しちゃおうかな。

同じお酒にも飽きてきた頃だし、椅子を引いて立ち上がる。


「イライ、ノートン。飲みなおさない?部屋にいいお酒があるの。」


垂れてきた髪を片耳にかけながらできるだけ艶っぽい笑みを浮かべると、すぐにノートンは立ち上がって笑顔で腰に腕を回してきた。
普段と酔ったときのギャップがひどすぎない?

イライにも促すように2人で視線を送ると、彼も戸惑いがちにこちらへ歩み寄ってきた。


「…いいのかい?」


「ふふっ、だって私たち」


「寂しい者同士だろ?」










「…すごい所を見てしまった。」


腕を絡ませ部屋を出て行った3人組を止めることなどできなかったイソップは、一人残された部屋の惨状と複雑な感情で頭を抱える。

まさか名無しさんさんが肉食だったなんて…。
あの3人を引っ付けてしまうくらいなら命令ありの1週間バニー生活でも悪くなかったんじゃないかと押し寄せる後悔の波に苛まれる。

好きなタイプ?性癖?あのとき反論していれば何か変わったか?
むしろ誘わなければ良かった。

砕け散った淡い恋心に彼がヤケ酒を始めてさらにダイニングが悲惨になることを誰が予測できただろうか。
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