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□衛生兵シリーズ
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はぁっ、はぁ…!
何枚板を倒して壁を乗り越えた…?
一体どれくらいの時間追いかけっこをしたのか分からない。
背中に1度受けた傷の痛みでそろそろ限界だった。
「あ゛ッ……!?」
体力の限界。少し気を抜いた瞬間に飛んできた霧の刃を受けてしまった。
体に走る痛みと尽きた体力での抵抗はほぼ意味をなさなかった。
風船らしきものに括りつけられ、そのままロケットを模したかのような椅子に縛りつけられる。
「なかなか面白かったですよ、貴方との鬼ごっこは。」
「は…は…そりゃどうも。」
正直今の状態に驚いている。てっきり捕まったら殺されると思っていたのに。
嫌な音を立てるこの椅子は、きっと上の時計の針が1周すればどこかへ飛ぶのだろう。
少しもがいてみたが、体を縛るロープは自力では破れないため抵抗は止めた。
「やけに大人しいですね。」
「諦めてるだけだよ。誰も助けになんて来ないさ。」
あの少女以外の参加者が誰かすら分かっていないのに、初対面のやつを助けるお人好しはまずいない。
「ふむ…貴方はつい先程荘園に着いたばかりでのゲーム参加だと聞きました。他の参加者と話す機会もなかったのですか?」
「話す機会も何も、参加してるやつの顔すら知らねぇんだ。」
ため息を吐くと、さすがにハンターであるこいつも同情したのか頭を抱えていた。
「荘園の主も酷なことをする…。では、先程の貴方のチェイスに敬意を示してここのことを教えて差し上げましょう。」
貴方が飛ぶまでね、と言った声が少し申し訳なさそうだった。
同情だろうがこの際聞けることは全部聞いとこうと限られた時間で質問をしたところ、ゲーム内で負った怪我は荘園に戻ると治ること、脱出してもロケットチェアで飛ばされても荘園にサバイバーは戻ること、荘園からの脱出は今の所不可能なことが分かった。
さっきの少女の怪我の治りは所詮ゲーム内だからということか。どういう仕組みかさっぱりだが。
「…そろそろですね。」
「あぁ、色々ありがとな。…えっと。」
「リッパー、サバイバーは皆私をそう呼びます。それとお礼はいりません。ただの気まぐれですから。」
「…そうか、俺は名無しさん。またな、リッパー。」
「えぇ、今度は同情は無しですよ。」
ニッと最後に笑うと椅子はぐるぐる回りだし、体は宙に投げ出された。
救助に来ようとしてくれたのか、飛ぶ前にちらりと見えたオレンジのつなぎに罪悪感が少し募る。
皆でなんて、嘘つくことになっちまったな…。今は彼女の健闘を祈ることしかできない。
リッパーか。きっとハンターといえどもゲーム外では案外いい人なのかもしれない。
俺と話さなければ、その時間に他のサバイバーを脱落させることだってできたのに。
空を飛ぶなんともいえない浮遊感に意識を徐々に持っていかれた。
次に気がついたときには、ベットの上だった。
「…気がついたか。」
目を開けたときに視界に入った見覚えのない天井に、横から聞こえた懐かしい声に先程怪我をしたところが全て治っていることに気づかなかった。
ばっと体を起こして横を見た。
「おい、起きたばっかだろ!無理すんな。」
「…ナワーブ」
そのまま彼の手に押されてベットに戻されそうになるのを阻止して抱きついた。
「?!…名無しさん…?」
「…心配した。」
流石、鍛え抜かれた体は平均男性一人分くらいの体重は余裕で受け止められるらしい。
「…悪かったよ。だから泣くなよ。」
「っ…泣いてねぇ…。」
「はいはい。」
優しい声でそう言った彼の、背中をゆっくり撫でる手はとても温かかった。
無事で良かった…。
頬を伝う水はきっと気の所為だ。