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□衛生兵と機械技師
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「改めて、はじめまして。俺は名無しさん。衛生兵やってるんだ。体力には自身あるぜ。手違いかなんかでここへ来たのが遅れちまったけど、仲良くしてくれると嬉しいな。これからよろしくお願いします。」


最後にニコっと笑顔を浮かべると拍手と共に複数のよろしくという声が聞こえてくる。

いい人が多そうでなによりだ。
ナワーブによる荘園案内ツアーを経て、ほとんどの参加者達とは途中で出会って自己紹介を済ませたが、これから世話になる挨拶も兼ねてダイニングルームで夕食を食べる前に自己紹介をさせてもらった。

案の定飛んできた質問に軽く答え、みんなでテーブルを囲って夕食を食べ始める。

質問は衛生兵ってなぁに?とかゲームはどうだったかとかの平凡なやつ。
彼女がいるのかって聞かれたときにいないって答えたら女性陣から歓声が上がったのは純粋に嬉しかった。思わず緩んだ口元を、指摘するかのように隣りに座るナワーブに小突かれた。痛い…。

腹いせも兼ねて隣の皿に俺の苦手なグリンピースを全部移してやった。軽く山ができている。


「ナワーブ君のお皿すごいことになってるの…」


「未だにグリンピース苦手なのな…」


「いいだろ?今は。」


ニコッと笑うと、ため息を吐きつつもナワーブは俺の分までしっかり食べてくれるからありがたい。





夕食が終わった後、ナワーブと、ナワーブと仲がいいウィリアムとしばし談笑していた。元の彼の明るくフレンドリーな性格も相まって、ウィリアムとはすぐに仲良くなった。
仲良く3人で話していたのも束の間、俺は視界の隅を通ったオレンジ色を見つけて思わず立ち上がった。


「名無しさん?」


「悪い、ちょっと抜ける」



ダイニングを去った小さな背中を思わず追いかけた。




「…」


着いてきて。という一言以降、少女は一切話さない。
やっぱり怒っている。
あのとき嘘をついた俺が悪い。


「ごめん、嘘をつくことになってしまって…。」


そう言ったあと、少女がやっと止まったのは中庭だった。


「……………ないよ…」


とても小さな声を聞き取るのは難しかった。
もう一度言ってもらおうとこちらが口を開く前に、少女はこちらを振り返り、今度ははっきりと言った。


「貴方が謝る必要なんてないよ…!貴方が頑張ってくれたから…私、脱出できたんだよ?そもそも、貴方は嘘なんてついてない。」


「…え」


話を聞くと、俺が飛んだ後、リッパーは一番近くにいたはずの機械技師であるこの子を追いかけてこなかったらしい。あとの二人は自分と同様、飛ばされてしまったようだが…。


「みんなで脱出は私を勇気付けるために言っただけで、約束はハンターを私に近づけさせない、でしょう?嘘、ついてないよ。」


「そっ、か…よかった。」


ニコッと笑みを浮かべる少女にほっと息をつく。どうやら嘘つきにならずに済んだみたいだ。


「…それに、謝るなら私の方だよ」


続く言葉に驚いた。危険なゲームだと分かっていたのに参加した後で怯えてしまっていたこと、皆の足でまといになっていたこと、もっと早く救助に行くべきだったこと…色々なことを告げた少女はずっと後悔していたみたいだ。


「ごめんなさい」


「いやいや、誰だって最初は怖いんだから仕方ないよ、普通のことだ…えっと、その」


俯く少女を勇気付けるにはどうすれば…。


「俺だって仲間のこと把握してなかったし、もっと仲間を頼ればよかったって思ってるし…あー…うん、やめた。次だ次!次は一緒に頑張りゃいいじゃねぇか。」


な?と笑顔で少女の頭をわしゃわしゃと撫でる。
辛気臭いのはどうしても苦手だし、誰かを勇気付けるとか正直一番苦手な分野だ。


「…ありがとう。そうだね、いつまでもなよなよしてちゃだめだよね。よし、次は1人で全部暗号機解読しちゃうぞ…!」


「おう、その意気だぜ、お嬢ちゃん!」


なんとか少女を立ち直らせることが出来て良かった。この子はゲームでもきっと要になる存在。必ず皆の力になれる。
…俺も頑張らなきゃな。


「ねぇ、さっきからずっと気になってたんだけど、お嬢ちゃんって…」


少し頬が膨れているような気がするのは気のせいだろうか、咎めるような視線にいたずらごころがわいてしまう。


「うん?あぁ、なんかトレイシーって可愛いからつい」


「か、かわ…?!」


急にリンゴのように赤くなってしまう少女が可愛くて、ついつい笑みがこぼれてしまう。


「はははっ!可愛いお嬢ちゃんだ。」


「っ…!もう、貴方まで子ども扱いして…!」


からかわれていることに気づいた少女はさらに真っ赤になっている。


「お嬢ちゃんがその貴方っていうのをやめてくれれば俺もやめるぜ?」


ニヤッと笑うと少女はうぅ…と葛藤しているのか、真っ赤な顔をまた俯いて隠してしまう。


「…名無しさん」


小さな声だったが、確かに聞こえた自分の名前。


「…うん、どうした?トレイシー」


答えるのに間があったのは許してほしい。赤みが残る頬に、潤んだ瞳でこちらを上目遣いで伺う彼女の表情はグッとくるものがあったんだ…。


「…えへへ。なんかいいね、こういうの」


「そうだな。」


「わっ!」


先程より荒っぽく彼女の頭を撫で回したのは今の自分の表情を見られたくなかったからだ。
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