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ひんやりと冷たい夜風が頬を撫でる。
もうそろそろ暑い夏も終わりか、と廊下の窓をめいいっぱい背伸びして閉める。
ここはサバイバーの荘園ではないから基本的に荘園の作りはハンターに合わせたサイズ感になっている。
あんまりこっちにサバイバーが来てるのは見たことないけど今日は別。
広い廊下に続く1つの扉の前で立ち止まりノックした。
コンコンコンとリズム良く扉を叩けば、はーい、こんな時間に誰だぁ?と少し間延びした声が聞こえてきた。
ガチャリ、扉が開くと彼は驚いた顔をする。
「、名無しさん?…おい、まさか一人で来たのか?」
正直にこくりと頷くと彼は盛大なため息をつき、とりあえず上がれよと部屋に通してくれた。
いつもの定位置のソファに腰を下ろすと彼もその隣りに座る。
「…来ちゃダメだった?」
「いや、そんなことはない。むしろ嬉しいくらいだし。ただ…」
女一人で夜道は危ない、言ってくれれば迎えに行ったのに。と厳つい見た目にそぐわず紳士的な彼に胸のあたりが温かくなる。
「心配してくれてありがとう、次からは頼らせてもらうね。」
横にいる彼に軽くもたれかかると、おう。という返事とともにもっと体重かけていいんだぞとばかりに肩に腕を回される。
「で、どうしたんだ?」
「Blackjack」
単語1つで彼にはすぐに伝わったようであ〜、あれかと私がここへ来た理由を察してくれたようだ。
「名無しさんはいい子ちゃんだからそういうの向いてねぇもんな。」
ははっと笑う彼に言い返せない。
私は別にそこまでいい子じゃないけれど、ゲームといえど騙し合いだったり誰かを裏切るようなことはあまり気が進まない。
「明日のお昼までにはハンターのパートナーを決めなきゃいけなくてね。」
ゲームが午後からだから、と言うと彼は快く引き受けてくれた。
彼はいつものゲームも強いし、ポーカーなどのカードゲームだって頭が良い彼は得意だ。それに何よりルキノが傍にいてくれるなら精神的にも安心だ。味方になってくれたのなら心強いことこの上ない。
「それで俺にか。おう、任しとけ!絶対勝たせてやるよ。」
「ありがと、ルキノ。」
お礼も兼ねて頬に軽いリップ音を立ててキスをした。
「お、これは頑張らねぇとな。」
「わっ」
わしわしと勢いこそあれど、鋭い爪で傷つけないように頭を撫で回す手は優しい。
「ね、泊まってもいい?」
「はなからそのつもりだろ?」
乱れた髪を戻しながら言うと、聞かれなくても分かっていたようでソファから抱き上げられてベッドまで連行される。
そのままぽすっと軽い音を立てて彼の匂いがするシーツの上に優しく下ろされた。
「…ルキノ?」
私に覆い被さることはせず、軽くお互いに布団をかけ、隣に添い寝する形になった彼に目で訴える。
「あー…そんな目で見るなよ、せっかく我慢してるんだからよ。」
そう言って今度はゆっくり優しく頭を撫でられる。
彼は明日のゲームに支障が出ないように控えてくれているんだ…。こういうとき、自分の小さな体を恨めしく思う。
「それに、ご褒美は後にとっとくもんだろ?」
「…うん。じゃあ今週末は休みだから…その…」
がんばる、ね…?と最後はだんだん尻すぼみになり恥ずかしさのあまり布団を口元辺りまで引っ張った。
ここは彼に甘えさせてもらうことにする。
「purcina…!」
「ぁわわ…」
布団ごとギュッと抱きしめられ、おやすみのキスを額に落とされる。
「心臓に悪いからもう寝ろ!おやすみ!」
「え、あ。おやすみ…?」
言ったが早いか彼はぷいっとこちらに背を向けてしまったので、大人しく目を瞑ることにする。
きっと朝起きる頃には彼の腕の中だろうと既にぼんやりとした頭で考える。
数分もすれば完全に意識は途絶えた。
「あっ…」
「…ごめん。」
申し訳なさげにその場を立ち去る参加者に押し付けられたカードは最大の数字の10。
第3ラウンドでこれはまずい、バーストした。
しかも運悪くハンターになっている参加者が近い。
このゲームは誰も信用できなくなりそうだった。負けてしまう…と泣きそうになると頭に聞き慣れた声が響く。
"俺がいるだろ"
「!…そうだね。」
このラウンドの残り時間は数十秒。
大丈夫、逃げ切れる。
これ以上手持ちのカードの数字を上げるわけにはいかない。彼のおかげで冷静さを取り戻せた。
板と窓枠を上手く使って攻撃を躱していると、世界から色を切り取ったような灰色の景色に辺りが変化する。
よかった、なんとか逃げ切れた。
カードの数値が21になった人がいたおかげでカードは引かずに済んだ。あとは…
"お願いね"
世界に色が戻った瞬間、私の意識と姿は彼へと交代する。
「任せとけ」
舌なめずりをし、獲物に狙いを定める真っ赤な瞳はまさに狩人そのもの。
「俺たちの勝利は決まってる」
宙へ高く舞った魔トカゲは圧倒的な強さと頭脳でどんどん参加者達を捩じ伏せる。
全ては彼女のために