天才てれびくんMAXの小説置き場

□私だけの特別が欲しいとかね
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Side.Akari



夕飯の買い出しをして家に戻ると、目に入るのはソファーに横たわる恋人。
まったくもう…と呟いて寝室から毛布を引っ張り出してきて掛けてやる。
時計の針はまもなく17時を指す。のんびりご飯の支度してたら、いい匂いに誘われてこの子も起きてくるだろう。なんてたって私の作るご飯大好きだもんね。

今日の夕飯は和食。最近は体に優しい野菜メインの食事にしている。もう24歳になる私たちだから肉々しいものを食べれなくなってきた。老いを感じる。


鼻歌を歌いながら包丁を動かしていると、ふいに背中に感じる温もり。
思わずひゃっと声が出る。







「もー、危ないでしょ、千帆。」

「…ごはん?」

「そう、今日は体に優しい和食です。」

「あかりのご飯、好き。」

「知ってまーす。」






ほらまだ出来ないからソファー戻ってって言っても、動く気のない千帆。
それどころか私の首に顔を埋めて、うーとかあーとか唸ってる。
今日はそういうモードなのかな。千帆ちゃん。






「ご飯出来たら呼ぶから、ね?」

「…わかった。」

「おりこーさん。」






一旦手を止めて千帆の方を振り向き、背伸びをして一瞬のキス。
腰に回ってくる手をさりげなく制し、ちゅ、と音を立てて唇を離した。
多分このままだとご飯作れなくなっちゃうだろうからさ。


























「ごちそうさまでした。」

「お粗末さまでした。」






ぱちんと手を揃えてニコニコとご機嫌に言う千帆。
食卓に並べた料理を千帆はぺろりと全て平らげた。やっぱり美味しそうに食べてくれると、作った方は嬉しいものだ。
洗い物は千帆がやってくれるので、私はソファーに座ってテレビをみようとリモコンに手を伸ばす。
そこで、机の上に置いてある冊子に目が止まった。
千帆の次出演する舞台の台本だ。中身が気になる…けど、舞台は初見で観たい。
台本を見つめたまま心の中で大葛藤してる間に、洗い物を終えたらしい千帆が隣に座った。









「あぁ、それ。まだ全部台詞覚えられてないんだよねぇ。」







台本を手に取りぱらぱらとページが捲られる。
マーカーで引かれたところが千帆の台詞だろうか。鉛筆で沢山書き込んだ跡も見える。
ふと視線を手元から移すと、真剣な顔をして台本を読む千帆。
千帆のこういう顔。結構好きなんだ。



ページを捲る音と、衣服の擦れる音、聞き慣れた心地良い音たちが私の眠気を誘う。









「…あかり?眠い?」

「…んーん?」

「絶対眠いでしょ。先お風呂入っておいで。」

「…一緒に入ろうよぉ…」

「一緒にー?」

「うん。一緒に。」

「仕方ないなぁ。」









私の好きな千帆の顔。真剣な顔も好きだけど、もっと好きなのは、本当に心を開いた人にしか見せないふにゃりとした笑顔。
でも千帆のこういう顔は、12年の付き合いになる元てれび戦士たちは皆見てるよね。
それがどうこうってわけじゃないし、兄弟みたいで隠し事なんて全くない間柄であるけど、やっぱりちょっとした独占欲。
恋人としての特別、欲しいなぁって思うよね。








「千帆。」

「うん?」

「明日、何時から稽古だっけ?」

「2時からだけど…」

「ならいいか。」

「え?っ、ちょあかり…」









千帆の手から台本を取って静かに机に置く。
膝の上に跨って軽く肩を押すと、背もたれに背中を沈ませた千帆が私を見上げる。
優しくて綺麗な彼女の目が小学生の頃から大好きだった。千帆に見つめられると、不思議と甘えたくなって、自分の思いや考えてることを全部話したくなるんだ。それってすごいことだよね。きっと千帆にしか出来ないこと。








「あかり、どした?」







分かってるくせに。
私がこれからしたいこと。
してほしいこと。








「今日は、夜更かししよ?」








千帆の耳に唇を寄せて言う。
くすりと笑って私の後頭部に手を添えた千帆は、端正な顔を妖艶に緩ませた。







「…いいよ。」






唇が重なる。




end.
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