ポケモン(長編)ダンデ

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朝起きたらハナが俺の隣に居なかった…
…もう仕事に行ってしまったんだろう…

昨夜はとても寝心地が良かった…
今だってハナの匂いや俺とは違う柔らかい感触が体に染み付いてるようで幸せな気分だ…

そのまま上機嫌でバトルタワーに向かった俺はいつものように仕事をこなしていたんだが…
…部下からキバナが来ていると聞かされれば、重々しい顔付きをしたキバナが俺の執務室に入ってきて1枚の封筒を突き出した


「…リーグ委員長のサインが必要なんだ
今すぐ内容を確認してくれ」


「これは…推薦状?
珍しいな?君が推薦するなんて……えっ!?」


差し出された封筒の中身はガラルリーグ委員会が開催しているジムチャレンジへ参加する為に必要な推薦状だった
キバナが推薦するなんてどんなトレーナーだろうか…とワクワクしたが、書類に記載してある人物の名前を見て俺は目を見開いた


「な、何故だ…!?どうしてハナが…!
ジムチャレンジに参加するんだっ?!」


彼女は確かにポケモントレーナーではあるが、バトルよりもコンテストが好きで…
…今はポケモンの美しさをガラルに広める為にポケモンサロンを経営しているんだぞ?!

何がどうしてジムチャレンジに参加する心境に変わったんだ!?


「…オーナー様は知らねぇのか?
ハナのサロンがSNSで叩かれてんだよ…
…マサルを無理に働かせてチャンピオンとしての責務を邪魔してるって」


「な、なんだって!?
ハナがそんな事をする筈がないだろうっ!
マサルだって最低限のチャンピオンとしての仕事をきちんとこなして…!「そう、最低限しかやらなかったんだ…お前と違ってな…」


…キバナの低い声が俺の言葉を遮り、静かな執務室に響き渡った


「…キバナ…何が言いたいんだ…!」


この静かな重い空気とキバナの険しい顔に俺は苛々と不安が募ってくる…


「…俺様はお前の考えが悪いとは思ってねぇ…
だがな…10年もガラルの人々の声に全力で応え続けてきたスーパースターの後任であるマサルが表舞台に出る機会が明らかに少な過ぎる…
…世間が納得してくれねーんだよ…
俺様の妹が…悪者にされるなんて許せねぇし、ガラルからまた出て行ったら耐えられねぇ…」


…世間が…ガラルの人々が納得していないと言うのか…?
…マサル達に…これ以上、義務を与えなければならないのか…?

まだ彼らは子供だぞ…
…俺と同じような思いはして欲しくない…

若いうちに好きな事をやってのびのびと大人になって欲しいんだ…!

俺は机に膝をつき、両手を絡ませて額に当てた

…考えなければ…!
思考を巡らせろ…この状況をどうにか…!


「…ダンデ、1人で悩むんじゃねぇ
…ハナがジムチャレンジする理由をアイツに聞いてみろよ
…俺様や他のジムリーダー達よりもずっとお前の気持ちを分かってる…」


「…彼女が俺の気持ちを…?
…今…ハナはどこに居るんだ…?」


「ハナの店にマサルと居るぜ…
…会って来いよ…マサルも不安がってる」


キバナから受け取った推薦状を手に持ちながら俺はリザードンをボールから繰り出す

そしてそのまま執務室のバルコニーへと出て…
…俺の恋人の元へと押しつぶされそうな胸の痛みを隠しながら向かった…


「ダ、ダンデさん…!」


「…すまないマサル…事情は粗方聞いたぜ…」


通い慣れたサロンの扉を開ければ、目を腫らしたマサルが俺の姿を見て目を瞬かせた…
…ハナはジッと俺を強く見つめたまま気高い雰囲気を醸し出している…


「…推薦状にサインしてくれた?
…マサルくんの為にも店の為にも…!
私が必ず解決してみせる…!」


「…君がジムチャレンジに参加した所で…
…解決できると本気で思っているのか?
バトルとコンテストでは勝手が違うんだ…
「それしか方法がないじゃないっ!!」


ハナの叫び声に近いまるで咆哮のようで苦しそうな声が轟く…

その声にビクッと肩を震わせたマサルは不安そうな顔で俺とハナを交互に見つめていた…


「…ごめんなさい…取り乱したわ…
でも…仕方ないのよ…っ!
ガラルの人々はポケモンバトルに酔狂してる!
…バトルの中で本当のポケモンの美しさを披露さえ出来れば、きっとこの状況だって…!」


「ハナ…」


俺は顔を歪めるハナの前に立つと、手に持っていた推薦状を目の前でビリビリと音をたてながら破った…
その光景を見たハナが目を見開く…

…と、同時に俺の手を掴みあげ、ギラッとした鋭い目で睨みあげる


「な…にしてんのよっ…?!」


「…君が無理にジムチャレンジに参加する必要はない…
リーグ委員長として…君の参加は認めない」


「どうしてよ!?
あなただって…マサルくんの気持ちが分かっ…「よく分かるさ…家族にも会えず、公式戦以外では大好きなポケモンバトルすら思うように出来ない…!
…ただ人々から望まれるチャンピオンを演じ続ける苦しさが…俺にはよく分かる…!」


ギリっと歯を噛んで拳を強く握り締める…
…目の前にいるハナの顔からは憂いが満ちていて…枯れてしまいそうだった


「…ガラルでポケモンコンテストを開催する!
全ての責任は俺が取ろう…ハナ…お願いだ…
…ガラル中に本当のポケモン達の魅力を教えてやってくれ…!」


「!!……上等じゃない…
今までで1番の最高の舞台よ…っ!
…チャンピオンに執着して本来のポケモンの姿が見えてないガラルの人々に嵐を巻き起こしてあげるわ…!」


ハナの広角は上がり、普段から垂れている筈の蒼い瞳は釣り上がっている…

あぁ…俺は何度もこの瞳を目にしてきた…
強い闘争心と誇りを持ったキバナの瞳とそっくりでゾクっと高揚に似た身震いがした…
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