ポケモン(長編)キバナ

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「サクラ…」


サクラの元に戻り、彼女に声を掛けた
…ゆっくりと俺に視線を向けたが、その顔は少しやつれてしまっているようだ…
…俺のリザードンも心配そうに見ている


「…場所を変えよう」


そう言って俺はサクラの手を掴み立ち上がらせる
ふらふらとした足取りだが、俺に掴まりながらサクラは大人しく歩いてくれる…

人が居なくて落ち着いて話ができる場所を探そうと思ったが…思い当たるのはひとつしか出て来なかった

…仕方ない、俺が泊まっているホテルにしよう…サクラもゆっくり休めるかもしれない


ホテルにつけばサクラをソファに座らせて俺も隣に腰掛けた
…なんてキバナの状況を説明しようかと考えていたら先にサクラが尋ねてくる


「…キバナさん…何があったんでしょうか…?
…急に私の事が分からないって…変ですよ…」


力無い姿のサクラに胸が締め付けられた
キバナの状況を聞くのがやはり怖いのか、不安が彼女の声と共に伝わってきた…

…俺はサクラの肩を両手で軽く掴んで此方を向かせ、目をしっかり合わせる


「説明はする…
だが先にひとつ約束してくれ…
俺はサクラの味方だ…これからは何かあったら遠慮せず、俺を頼るんだ…いいな?」


…俺の重々しい言葉を聞いてサクラは察してしまったようだ…
本当に今のキバナにはサクラの事が分からないんだという事を…

…それでもサクラは表情を動かさず、口を閉ざして何も言ってこない…

…返答を貰えなかったのは心残りだが、俺はゆっくりと先程キバナと話した内容とムンナの個体について説明した…


「…キバナさんは…私との記憶ぜーんぶ…
ムンナに…食べられちゃったんですね…
…そしたら私の事なんて…分かる訳がありませんよね…!」


ようやく表情を動かしたサクラは苦笑いを浮かべている
…強がっているのがすぐに分かった

…何故、そんなに物分かりが良い返事が出来るんだ…?辛いはずだろう…?

自分の気持ちを必死に抑えて整理しようとするサクラの様子に俺の方が不安になってしまう…


「無理しなくていいんだ…今は…休むといい」


そう言って強がって震えているサクラを抱き締めてしまいたかった
俺もどうしようも出来ない状況に胸が苦しい…

そんな時にサクラが急に勢い良く立ち上がった
一体、何事かと俺は驚いてサクラを見つめる


「わ、私のポケモン…!」


そう一言、言葉を漏らせば自分のリュックをガサゴソと慌てた様子で漁り出す


「だめだ…やっぱりキバナさんが持ってる…
…ラビフットのボールも空っぽ…?」


っ!…そうだ…サクラの元々手持ちだったポケモンたちはキバナが預かっている…!
しかも…俺はサクラのラビフットを置いてきてしまった…!

自分の失態に気付き、サーっと血の気が引くような感覚が俺を襲う

サクラもショックなのか、空のモンスターボールを見つめたまま硬直していた…


「だ、大丈夫だ!
キバナはガラルのトップジムリーダー…
…ポケモンを蔑ろにするはずがない!」


そう声を掛けてみたが、サクラは先程のキバナとの件もあった上に自分の大切なポケモンたちも今は手元に居らず…
…バタンとショックで倒れた

間一髪で伸びた俺の手が倒れていく彼女を支える事に成功したが、気を失っている…

そのまま彼女の体を持ち上げてベッドに寝かせて休ませた

…サクラの身体は軽かった

俺よりもずっと小さな体で突然、違う世界にやってきたっていうのに…

きっと不安だっただろう…

ずっと傍に居たわけではないからサクラの苦しみを俺は一部しか分かってやれない…

ようやく、ジムチャレンジという目標に向かって進んでいった彼女を苦しめる運命を倒してやりたかった

…ポケモンに襲われて記憶を喰われたキバナも気の毒だが…
あれだけサクラを大切にするって俺と約束したじゃないか…!

サクラはキバナだけを…
…望んでいるんだぞ…!!

悔しくて悲しくて…行き場のない怒りが込み上げてきてギリっと唇を噛んだ

…眠るサクラの顔を見れば手が勝手に動いて彼女の頬に触れる…
…柔らかくて暖かい…

キバナ…君は彼女を故意ではないにしろ手放すのか…?
…俺が一体、何の為に今まで我慢してきたと思ってるんだ…!

…このままサクラをキバナから奪ってしまいたい衝動に駆られた

…しかし…俺も長年キバナとライバル兼親友として関係を続けてきた
だからもちろん、キバナのことも気掛かりだ

自分のスマホロトムを手に取り、手当たり次第に知り合いを辿って俺はムンナの情報を集め出した…
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