ポケモン(長編)ダンデ

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…ハナくんに手を引かれるまま、キバナから逃げるようにナックルスタジアムから出た…


「あーキバナは相変わらずだったわねぇ…
色々とホントにごめん!えーと…ダンデくん?ダンデさん?」


「…好きに呼んでくれて構わないぜ」


「じゃあダンデくん!
私の事はハナって呼んで?
…くん付けはちょっと嫌…」


「わ、分かった…」


ヘラっとした顔で笑うハナは先程、俺に…
…ひ、一目惚れしたと言っていたが…

…まるでそんな事を気にしていないかのような素振りだ…

女性に告白されるのは初めてでは無いが…
…俺はチャンピオンとしてポケモンやバトルを最優先に生きてきたし、それらが俺の全てだと言っても過言ではない…

…恋愛なんて正直、俺の人生には必要の無い物だとすら思っていた…

それなのに…何故だ…!?
…ハナに一目惚れなんだと、だから俺と離れたくなくて一夜を共にしたんだと…

そう言われた途端に感じたこともない初めての感情が身体を駆け巡った…!

顔を中心に身体中が熱が包み込み、俺の心臓はバトル時のように激しい鼓動を響かせていた…

俺はこんな感情も体の異変も知らないぞ…!?
…身体を重ねる行為がこんなにも激しい感情を誕生させるきっかけになるものなのか…?!

それにさっきから…ハナが俺の体に触れる度に喜びに似たような恥ずかしいようなくすぐったい気分になってしまう…!

俺が自分の異変に戸惑っていると苦笑を浮かべたハナがパチンと手を合わせて俺を見つめた


「本当にごめんね?
キバナって普段は温厚なんだけど、怒り出すとちょっと大変なのよね…
…あーでも言わないと、ダンデくんがキバナに怒られそうだったからさ!
あっ!もちろん、私は昨夜の事なんて気にしてないわよ?」


…ハナの言葉を聞いて自分でも機嫌が悪くなっていくのが分かった


「…君は…俺がキバナに怒られると思って…
軽々しく一目惚れをしたと…
…そう言ったということか…?」


「軽々しくって…まぁ確かにそうなるわよね…
んー…流石に迷惑を掛け過ぎたわ…
…本当にごめんなさい…」


…昨夜からずっと強気だったハナが俺の言葉にしゅんと小さくなって謝罪の言葉を述べる

違うんだ…謝って欲しいわけじゃない…!

彼女の言動に自分が不満を感じているという事は理解している…

…彼女が俺に好意を持っていてくれたわけじゃなかったんだと認識して…
何故か…酷く悲しくなってしまった…


「…いいんだ…
俺もアルコールのせいとはいえ、君に酷い事をしてしまったからな…
…すまなかった」


彼女と目を合わせられない…
…胸がチクチクとまるで刺されているみたいに痛い…

…昨日のアルコールのせいで火照ったハナの表情やベッドの上で乱れていた姿が脳裏に浮かんできたが…
…今は何故だか…随分と遠い昔の記憶のように思えてしまう…


「ちょっとちょっと…!
アレってダンデさんじゃない?!」


街の人々の浮かれた声が耳に入ってきてハッとした

…いくら引退したと言っても俺は10年間もこのガラルでチャンピオンをやってきたんだ…
オーナー服を着るようになってからは前よりも気付かれる事は少なくなっていたが…

ナックルシティはとにかく人が多い
…気付かれてしまったか…!


「…ねぇ、街の人たち…さっきからダンデくんの事をずっと見てない?
ほら、名前も呼んでるし…」


…俺は世界的にも知名度が高いと思っていた
しかし…どうやら彼女は俺が元ガラルのチャンピオンだと知らないらしい…

…だから昨夜もあんなに気さくに酒を呑めたのかもしれないな


「あぁ俺は…「ダンデさん!サインお願いしてもいいですか?!」


自分の正体をハナに教えようと口を開いたが、ファンと思われる女性に声を掛けられて遮られてしまう

…そして長年のファンサービスが身に付いてしまっている俺はニカっと笑顔を向けてファンに答えてしまった…


「あぁ、もちろんだ
応援してくれてありがとう」


1人が俺に声を掛けてくれば…自分もと躊躇っていた他のたくさんの人々も集まりだし始めて…

しまった…!
…これでは動けないんだぜ…!

ファンの対応に俺が追われていると先程まで隣に居たはずのハナの姿が見えなくなっている事に気付いた

まずい…!ついハナを放置してしまった…!

慌てて辺りを探すがやはりハナの姿はない


「すまない!
今はプライベートなんだ!失礼する!」


慌ててファンの間をすり抜けてキョロキョロと辺りを闇雲に走り回って探す

…運良くハナの姿を俺は珍しくすぐに見つけられたんだが…
彼女、近くにあるブティックでショッピングを楽しんでるな…汗


「あ、終わったー?
ダンデくんって人気者なのね!
…とりあえず、目立たないように着替えた方がいいんじゃない?」


そう言って飾ってある服を手にとって俺に押し付けてくる
そして…そのまま試着室へと背中を押された…
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