ポケモン(長編)ダンデ

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「あら…似合ってるじゃない!」


着替えを終えて試着室を出れば、明るい表情を浮かべたハナが駆け寄ってきた

…後ろを振り返り、全身鏡に映った自分の姿を見て俺は驚く…!

…まるでファッション雑誌に載っているような格好だ…
キバナの私服に少し似ているような気もするがキバナの私服と比べたらシンプルでキッチリとした雰囲気がある…

そして…何故、俺のサイズが分かったんだ…?

…俺はつい不思議に思って口に出してしまった


「…すごいな…全部ピッタリだ…」


「そりゃあ昨日、見たからね!」


ハナの言葉を聞いて俺の顔には熱が集まる

…なんで口に出してしまったんだ、俺は…!
…昨夜、夜を共にしてしまったんだから良く考えれば分かるだろう…!

自己嫌悪に陥っている俺の様子を気にもしないでハナは、レジに向かって行き、会計を済ませようとしていた


「待ってくれ!会計は俺が…!」


慌てて止めに入って自分のスマホロトムを取り出して店員に会計を頼む


「ちょっと!
お詫びにプレゼントしようと思ったのに!」


頬を膨らませてハナが不満を口にしてるが…


「冗談じゃないぜ!
…女性に会計をさせるなんて…!」


眉を寄せて俺は負けじとハナに言い返す


「…ダンデくんって意外と紳士?」


「…何を言っているんだ?」


ハナが一瞬、目を丸くさせて俺の事を紳士と言ってくれたが、意味が分からない

…俺が間違っているのか?
…幼馴染であるソニアとたまにカフェでお茶をしたりするが、会計は必ず俺が払う

ソニアの元彼の愚痴に付き合うこともしばしばあって、その会話の内容から女性にお金を出させるべきではないと認識していたんだが…


「んー…なんでもない!
あ、そしたらもっとカッコ良くしてあげる!」


「カッコ良く…?」


キョトンとしている俺の腕を掴んでブティックを出れば、隣接しているヘアサロンへと入って行くハナ

…俺をスタイリングチェアに座らせれば、ヘアサロンの店員と話をしている…


「さぁダンデくん!
大人しくしててちょうだいね!」


店員からヘア道具を借りたハナが俺の背後に立つ
…その手にはシャキーンとハサミが光っていた


「えっ!?君が切るのか?!」


…身の危険を感じた俺は椅子から立ち上がり、逃げようとするも上からハナに肩を押さえつけられてしまう…!


「大丈夫よ!
私、ポケモントリマーの資格持ってるし!」


「俺はポケモンじゃないんだぜ?!」


「分かってるわ、冗談よ、冗談!
ちゃんと美容師免許も持ってるから安心して?
…って…うわっ!ちゃんと手入れしてるの?!
枝毛だらけじゃない、せっかく長いのに!」


内心、すごくハラハラとしたが…
大人しく座っていれば俺の髪を手に取り、慣れた手つきでカットしていくハナ

…時々、俺の首筋に当たるふわふわとした髪とハナの手がくすぐったい…


「はい、おしまい!」


「…君はすごいな…
…この髪型はどーやったんだ…?」


俺は再び、鏡に映った自分の姿を見て驚いた

…普段、髪の毛の手入れなんて忙しくてしていないというのに今はなんだがツヤツヤしている気がする…

それにヘアアレンジ?…というのか?
…俺の髪が複雑に編み込まれていてまるで別人になった気分だ…


「こーゆー髪型とか格好した事ないの?
さっきの格好もカッコイイと思うけど、こっちも似合ってるわよ!」


「そ、そうか…ありがとう」


そんな真っ直ぐな目をしてカッコイイだなんて言わないでくれ…!
…さっきから俺の心臓がうるさくてどうしたらいいのか分からなくなってしまう…!

ハナは、テキパキと借りた道具を店員さんに返しに行ったが…
…戻って来た彼女の表情は憂いを帯びていた


「髪を整えてヘアアレンジをしたくらいじゃ、お詫びにならないかしら…
…私に出来る事が他にあればいいんだけど…」


うーんと顎に手を当てて真剣に考え込むハナに俺を苦笑いを浮かべた


「…さっきから思っていたんだが、お詫びって何のことなんだ…?
…昨夜のことなら俺にだって非があると言っただろう…」


「あーうん…そうかもしれないけど…」


俺の発言を肯定しながらも目線を逸らしてバツの悪そうな顔をしたハナに違和感を感じた


「…何か他に問題があるのか?」


「…さっきここの店員さんから借りた道具を返した時にダンデくんの事を聞いたわ…
…アナタ、10年もガラルでチャンピオンだったんでしょ…
しかも今は新しく出来たバトルタワーっていう施設のオーナーをやってるって…」


…心底、申し訳なさそうな表情を浮かべてそう言うハナ
しかし…それを知って何故そのような顔をするのか俺には全く分からない…


「…確かにそうだが…」


「…ごめんなさいね、本当に…
ダンデくんが…ここまで有名人だなんて全然、知らなかったのよ…
…あまり一緒に居ない方がいいわ
きっとマスコミも黙ってないでしょうし…
…今度キバナにお詫びの品でも届けさせるわ」


…しゅんと小さくなってしまったハナの言葉を俺は黙って聞いていた…
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