ポケモン(長編)ダンデ

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…冗談だろう…?
な、何故…ハナが俺の家の前に居るんだ…?

しかも…隣に越してきたって聞こえたんだが…
…俺の空耳か?

つい先日、俺は今年何度目になるか分からない引っ越しをしたばかりだった

…マンションの近隣住人や追っかけのファンに帰宅姿を目撃されてな…
もう恒例となっているプレゼントの嵐と見知らぬ人の来訪に困り果てた結果の引っ越しだった

今のマンションはバトルタワーからだいぶ距離があるんだが…
住人が少ない上にシュートシティの中心部から離れている事もあって、見つかる可能性が格段に減っている

…前の部屋よりもずっと広いから手持ちのポケモンを全て出してあげれるしな!
だから…俺は新しい部屋を気に入っていた…


「…落としたぜ」


ひょいとハナが落としたギフトを拾い上げて、差し出した
…だが…ハナは俺の顔を見つめてあんぐりと口を開けたままだ…


「…ハナ?」


「え…やっぱりダンデくんじゃない…
どゆこと?…また引っ越したの?」


俺が彼女の名前を呼べば、ようやくハッとしたハナが目を泳がせながら言葉を発した


「つい先日な…
…また見つかってしまったんだ…」


苦笑いを浮かべながら平然そうに俺は喋っているが…内心は穏やかでは無いっ!

だってそうだろう!?
自分が好意を抱いている女性が隣の部屋に引っ越してきたんだぞ?!

とてもじゃないが、隣でハナが生活している…なんて考えたら俺は寝れなくなるんだぜ…!

昨夜、彼女とバーで過ごした短い時間でさえも俺は緊張してしまっていたし、ハナが許してくれても未だに俺の彼女に対する罪悪感はわだかまりとなって残っている…!

そんな状況でどうやって生活すればいいんだ…
…もう俺は野宿でもしたら良いのだろうか…


「…それ、引っ越しの挨拶の為に持ってきたの
…受け取ってくれる?」


「そ、そうか…ありがとう…」


…長い沈黙が続く…

沈黙に耐えきれなくなったハナが、小さな苦笑とも取れる微笑みを向けて隣の部屋へと戻って行ってしまう…

ほ、他に何か言える事があっただろう…!
…困ったら頼ってくれとか!!

うぅ…俺らしくない!ポケモンバトルならこんな風に思考が止まる事なんて無いのに…
…俺は恋愛というものが苦手なのかもしれない

はぁ…と溜息を吐きながら部屋に戻り、ハナがくれたギフトの包みを開けてみた

…そして中身を見た俺は目を輝かせる


「リザードンだ…!」


自分の相棒でもある、リザードンをモチーフにしたマグカップ…
俺が使用するには可愛らし過ぎるかも知れないが…小さな相棒の姿につい心が踊ってしまう

もしかして俺のために…?
…なんて都合の良い事を考えてしまったが、これは隣人への挨拶の為に用意したものだと言っていたから間違いなくそれは無い…

…しかし、ハナの趣味でも無さそうだしな…

俺は首を軽く捻って考えたが、やはり意図は分からない…
…が、このマグカップは俺が長いこと愛用していく事になるのは間違いなかった


「む…降ってきたな…これは荒れそうだ…」


夜が深くなってきた頃に外からポツポツと雨の音が聞こえてきて、俺は窓の外を見た
遠くで雷がピカっと一瞬、光るのが見えてゴロゴロと音が響いている…

これは…かなり荒れるかもしれないな…

スーッと部屋の気温も下がってきた気がする…
俺は部屋で遊んでいた自分のポケモン達が風邪を引いてしまわないようにモンスターボールへと戻した

…モンスターボールの中は、ポケモンにとって居心地の良い環境になっているらしい…
俺は入った事がないから真相は分からないが、どの本にだってそう書いてある
…何事にも例外はあるけどな…

そのまま、机に戻ってPCをカタカタと動かす…
主にバトルタワーで業務をしているんだが、今日は優秀なチャレンジャーが多かったのでバトルに駆り出される時間がいつもより長かった

ガラルのトレーナーが強く育っている証拠だからオーナーやリーグ委員長として、そして何より俺自身が喜ばしい…

おかげで家でも仕事をする羽目になってしまったが、こんな理由ならむしろ嬉しくて仕方ない


ドカンッッ!!


「うわっ!?…今のかなり近かったぞ…!」


業務に集中していると突然の落雷音に思わず、肩がビクッと反応していた…!
窓に目をやれば、俺の予想通り大荒れの天気にすっかりと変わっている…

夜の暗さと相まって少し怖いくらいの外の景色に俺はカーテンを閉めた

そんな時に俺のスマホロトムが着信を告げながら、俺の周りを飛び回り始める…
…こんな遅い時間に着信なんて…と一瞬、眉をひそめたが、着信先を見た俺は慌てて応答した


「どうし…「助けて!お願…キャァァァ!もうやだーっ!うぅキバナァ…」…えっ!?」


…着信先はハナだったんだが…

…彼女はかなり…
いや…とてつもなく乱心していた…
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