ポケモン(長編)キバナ

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真っ暗だったワイルドエリアにも太陽が昇り始めた頃…

背中の鈍い痛みとテントから少しだけ出ている朝日でまだウトウトしているが目が覚めた

つーか寒いっ…!
この寒い冬の時期にテント泊まりかよ
俺様、ドラゴン使いだし…寒いの苦手だっつーのに…
…足、テントに入りきれてねぇし…

起きたばかりのぼんやり頭で考える
外の空気は朝日が差し込んでいるとはいえ寒い

辺りを見渡せばテントで寝ていたのは分かるがどのようにしてテントで寝ていたかは分からない

ゆっくり上体を起こせば背中に鈍痛が走る

…そーいえば夜中にフライゴンに乗って帰宅途中だったよなぁ…
真夜中だし、空中なら野生のポケモンと遭遇しないだろうと思ってヨルノズクにぶつかって…

空中落下したな、俺様


段々と冴えてきた頭で昨日の夜に自分がフライゴンから落ちたことを理解する

ん…?…なんか腹の辺りがぬくいような…

そう思ってそちらに視線を向ける


「えっ…女…か??」


目を見開いて驚いた
自分の腹の辺りにすぅすぅと寝息を立てて自分を暖代わりにする黒髪の長い女が見える

つーか柔らかいのが当たってんだけど…
いや、悪い気はしねぇ
とりあえず、起こして状況聞くか…


「おーい、起きてくれよ」


ゆさゆさと眠る女の肩に触れて揺すってみる

髪…サラサラだな…なんて考えていると目を擦りながらゆっくりと起き上がる女

…目、まだ開いてないけどな
とりあえず、話しかけてみるか…


「…俺様、昨日フライゴンから落ちた後から覚えてねーんだけど…
お前が助けてくれたのか?」


「うーん…うん…?」


寝ぼけているのか曖昧な返事を返す女

なかなか目を開けない奴だな…
上体は起きてるのに…

ここまで寝ぼけている奴も面白いので顔を近寄らせてじーっと観察してみる
しばらく沈黙が続けばやっと目が開いた


「あ、昨日空から降ってきた…人…」


ゆっくり開いた目でうつらうつら気味な女はやっと言葉を発したが、近距離でその様子を見てた俺様と目が合う

その瞬間、女はハッキリと目が覚めたようで、急に目の前に男の顔があれば驚くよな…
って思っていたら案の定、顔は真っ赤だ


「キ…キバナ…さん?」


口をパクパクとして震える声で俺の名前を呼んだ


「お!俺様のこと知ってるのか!
アンタが助けてくれたんだろ?サンキューな!」


状況からしてこの女が助けてくれたのは間違いねー
ふるふるといまだに震えてる女に向かってニカっと笑ってお礼を伝えるが…


「リ…」


「り…?」


「リアルキバナさんだーーー!!
うっそ!やっばいっ!
めっちゃかっこいいんですけどーーー!!」


キャーキャーと熱狂的なファンのごとく甲高い声を上げて喜ぶ声
さっきまで寝ぼけてたのに、こっちがびっくりしたぜ…


「あ、びっくりさせてごめんなさい…私、サクラって言います!
昨日の夜、空から人が降ってくるのでビックリしました!
意識戻ってよかったですねぇ…まさかあのキバナさんだとは思いませんでしたが…」


驚いてる俺様を見てはハッとしてきちんと俺様に向かい合い、自己紹介をしてくれた

…なんてゆーか…新しいタイプの女だ

スラッとした綺麗系の顔に似合わず、テンション高めの子供みたいで無邪気な笑顔をこちらに向けている


「あ、あぁ…俺様、有名人だからな…
…ところでサクラ?だよな?俺様は助かったが…
普通、こんな時期に女1人でキャンプするもんじゃねぇと思うんだが…」


起きてから違和感があったことを口にしてみる

ワイルドエリアでキャンプするトレーナーは確かに多いが流石に冬の寒い時期となると殆どいない
…しかも女1人で

野生のポケモンの中にも強いのがちらほらいるのがワイルドエリアだ
バッチを持っているトレーナーならまだ分かる
…だが、狭いテントを見渡してもまず道具が不十分すぎるし、バッチを持っているトレーナーと比べればこの女は覇気がない


「あの…私、ポケモンの世界って初めてで…
経験してる人が他にいるとも思えませんが…
あ!でも現実にポケモンが居るのが夢みたいで嬉しいです!」


は?ポケモンの世界?現実にポケモン?
…何を言ってんだ…?

思考が一瞬停止する


「悪い、話がよく分からないんだが…」


困った顔をしては一旦、サクラの話を遮った
するとサクラも困った顔を向ける
そしてゆっくりと話し始めた

今、俺たちがいる世界はゲームやアニメの世界
ポケモンはサクラの元いた世界ではありえないのだという

そして急にポケモンの世界に来てしまって困っていた所に…
…俺様がたまたま落下事故を起こして今の状況…というわけみたいだ

…とんでもない状況だな、そりゃ

にわかに信じがたいが嘘をつくような人間には見えない
思考を整理しながらサクラの顔を見れば不安そうな顔で下から俺の顔を覗き込んでいた
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