ポケモン(長編)キバナ

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「いや…っ!離してっ!」


逃げていくサクラを追い掛けて腕を掴んだ
しかし…パニック状態になっているサクラは俺の腕を振り払う

俺はそんな姿が見ていられなくて後ろから暴れるサクラを抱き締めて抑えた
浅い呼吸を何度も繰り返しながら暴れていたサクラが徐々に大人しくなってペタンと地面に落ちるように座り込んでいく…


「サクラ…キバナは何かあったに決まってる…
だから今は落ち着くんだ…」


俺がそう言えばサクラは泣き出した…
…こっちの世界で彼女が信用して頼れるのはキバナが1番だったはず…

…そうだよな、苦しいよな…辛いよな…

泣いているサクラを俺は抱き締めてやることしか出来ない…

しばらく泣いたサクラは段々と落ち着いてきたようだが…
…小さな口から枯れたような声が聞こえてきた


「…昨日までは…
…デートしてる時は普通でしたよ…
…私が寝ている間に何かあったのかもしれません…」


「…分かった、俺が聞いてくる
…一緒に行けるか…?」


俺の問いにサクラはふるふると力無く首を横に小さく振った
…怯えた表情を浮かべるサクラを1人にしたくなくて、俺はボールからリザードンを出す


「…傍に居てやってくれ」


リザードンはコクリと頷き、サクラの傍に座り込んだ

そして俺がすぐにキバナの元へ向かおうとしたらサクラのリュックからラビフットが勝手に出てきた

ラビフットの顔は凄く怒っている…!

そのままキバナの元へと走り出していくので俺は慌てて追い掛けた

トレーニングルームへ入れば状況を掴めていないキバナが俺に話し掛けてきたんだが…


「ダンデっ!一体、どうしたっていうんだよ…うわっ!いってぇ!!
な、なんだよ、このラビフットっ!?
ちょっ…やめろって!!」


…先に走り去って行ったサクラのラビフットはキバナを見るなり飛び蹴りを食らわせていた!

急な攻撃に驚くキバナだが…なんとかラビフットを捕まえて腕の中に押さえつけている

…キバナに押さえつけられたラビフットは今度は大声で泣き出した
意味がわからないと言いたげなキバナの顔が俺の目に映る…


「その子は…俺がサクラに…
…さっきの女性にあげたラビフットなんだ」


「…ふーん?
…急に襲いかかってきやがって…
まだまだ育てが足りねーんじゃねぇの?」


キバナがムスッとした顔で答える
ラビフットの飛び蹴りはキバナの頬を直撃しており、赤くなっていた


「サクラのラビフットが怒るのも無理はないんだが…
なぁ…キバナ…君は昨日なにをしてたんだ?
…何かあったんじゃないのか?」


「あー?
…昨日は…宝物庫の管理してたぜ?」


「…本当にそれだけか?」


じーっと重い目線をキバナに向けた
…俺の視線が刺さるキバナは後頭部をガシガシと掻きながら気まずそうに口を開き始める


「…宝物庫で作業してたらゲンガーとムンナが入ってきたんだよ
んでムンナが弱ってたから助けようとしたゲンガーにさいみんじゅつをくらっちまって…
…ムンナに夢を喰われちまったみたいだが…
別に多少頭が痛いくらいでなんとも無いぜ?」


ムンナ…だとっ!?


「おい、キバナ!そのムンナは…!
生まれたてだったんじゃないか?!」


「あぁ…たしかに普通のムンナよりは随分、小さかったな…
ってなんで分かるんだよ?」


…昔、機密プロジェクトのポケモンの生態を調査する施設に訪れた際に聞いた話がある…

生まれたばかりのムンナには稀に生命力が乏しくて夢だけでなく記憶もエネルギーとして食べてしまう個体がいると…

つまり…キバナはそのムンナに…
…サクラとの記憶を喰われたんだ…

キバナの様子がおかしかった理由は判明したが…こんな事…サクラに伝えられるわけがない…

俺が気難しい顔で黙り込んでいれば、状況が掴めていないキバナが少しイラッとした口調で話しかけてきた


「なぁ…急に女を連れてきたかと思えば一体、何なんだよ…
あの女も泣き出すし、意味が分からねーよ…
説明してくれ!」


…今、キバナに説明したところでどうにかなる問題ではない…
サクラは…彼女の気持ちはどうなるんだ…


「…俺の口からは…言えない」


「はぁ?!なんでだよ!?」


「…ムンナが食べたのは…夢じゃない
キバナ…君はムンナに記憶を食べられたんだ」


「…記憶…?…俺様の?
なーに言ってんだよ、ダンデ!
俺様、なんも忘れてねー…「忘れてるんだっ!……本当に…!」


キバナの言葉を遮って反論した
…サクラの今の状況が理解できた俺はきっと心底同情した顔を浮かべているんだろう…

キバナは俺の顔をみて驚いたまま何も言わなくなってしまった…

そのまま俺は悲痛に顔を歪めながらトレーニングルームを出てサクラの元へと戻った…
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