ポケモン(長編)ダンデ
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…さっき街中でダンデくんが囲まれていた理由がようやく分かった…
私は彼の事をちょっとした有名人なのかしら?…くらいにしか思ってなかった
けど…ヘアサロンの店員に道具を返した際に言われた言葉を聞いて腰が抜けそうになったわ…
「あのダンデさんの彼女さんなんですか?!
元ですが、10年もチャンピオンに君臨し続けた通称、無敵のダンデ!
…しかも今はシュートシティ、バトルタワーのオーナー…!
そんな人が彼氏なんて羨まし過ぎますっ!」
…目をキラキラさせて興奮気味に店員が話していたけど…
冗談じゃない!
ダンデくん、超有名人じゃないのっ…!!
…てゆーか彼氏じゃないし!
そもそもなんでそんな有名人の癖に気軽に女に声掛けて朝まで過ごしてんのよ?!
…週刊誌のいいネタにされるわ!
いや…私が酔わせて襲ったようなもんだった…
…彼、優しいし…NOなんて言わなかったから、振り回しちゃったけど…
そんな超有名人の童貞を奪ってしまったんて!
あぁ…申し訳ないって気持ちしか出てこない…
懸命に言葉を選んで謝ったけど…
…さっきからダンデくんは…黙り込んだままで何も言ってくれない…
「…場所を変えないか?」
そう言った、ダンデくんは私の手を引っ張ってヘアサロンを出て行く
…私、しばかれるのかしら…
だってほら…モンスターボールからリザードンを繰り出してるし…汗
「えっ?!ちょ、ちょっと何するの?!」
緊張気味の私をダンデくんは急に横抱きにしたかと思えば、そのままリザードンの背に乗って空に向かって飛んでいく…
逃げようにも空中では逃げ場など無い…
おまけにチラッとダンデくんの顔を見れば…
…怒ってる?すっごく顔が険しいんですけど…
…そのまま私は声も掛けられずにダンデくんの腕の中で大人しくするしか無かった…
「…ここ…ハロンタウン…?」
…辿り着いた先は、のどかな田舎風景が広がる小さな町…
ウールーがたくさん居て、広い畑からはきのみや作物の匂いが漂ってくる…
「あぁ…俺の故郷だ」
「へーそうなの…って故郷っ?!
…すんごく意外…ダンデくんは、もっと都会の出身かと思ってたわ…」
「ははっ!…よく言われるがこのハロンタウンこそ、俺が産まれ育った場所なんだぜ」
…そう言ったダンデくんは、懐かしそうに目を細めて辺りの風景を黄金の瞳に映した
「…なんでこんな所に私を連れて来たの…?」
「…ここなら人が少ないからな
それに…昔話を君に聞いて欲しかったんだ」
私はダンデくんの意図が分からなくて首を傾げながら彼を見つめた
ダンデくんは青々と茂った原っぱに座り込んで足を伸ばす
…そしてとんとんと地面を軽く叩いて私に隣に座るように勧めた
「…昔話って?」
…大人しくダンデくんの隣に座れば、原っぱに生えている緑が柔らかくて気持ち良い…
…なんだが気分が穏やかになってくる…
「…俺の小さい頃の夢はチャンピオンになる事だったんだ
…1番強いポケモントレーナーになりたくてユニフォームの背番号を1にしたくらいでな」
「…10年もチャンピオンやってたんだから充分強いポケモントレーナーじゃない
…夢は叶ってるわ」
私の双子の兄であるキバナもチャンピオンを目指して努力を続けていたから、どれだけチャンピオンになる事が難しい道なのか知ってるわ…
「あぁ…夢は叶った
…だが、俺はチャンピオンになってからチャンピオンとはどんな存在なのかを知ったんだ…」
「…孤独な存在…」
…つい、ダンデくんの話を聞いてポロっと私の本音を口に出してしまう
ハッとしてダンデくんの顔を見れば、驚いたように目を丸くさせていた
「…その通りだ
常に強者である立場で観客を魅了させ続けなければならない…
人格、仕草、立ち振る舞い…全て善良で完璧な人間であれと俺はチャンピオンになった10歳の時からローズ委員長に仕込まれたんだ
…まるでピエロにでもなった気分だったよ」
…ダンデくんの言葉が痛いくらい私の心の奥を突き刺してくる
まるで自分のことを話されているようで、目に涙が浮かんできてしまう…
「それでも常にポケモンバトルが出来て最高に楽しかったし、キバナというライバルにも出会えて俺は幸せだった
…1番好きな事を全力で出来る環境に俺はとても満足してたんだ
…チャレンジャーに敗れてチャンピオンを降りた時だって、もっとたくさんポケモンバトルがしたかったのとガラル全体のトレーナーを強くしたくてバトルタワーまで作ってしまった…」
「本当にポケモンバトルが好きなのね…
…バトルジャンキーって言われない?」
私の言葉にダンデくんはクスッと小さく笑った
「あぁ…キバナによく言われるんだぜ
…君たち、本当に双子なんだな」
「えぇ…まぁね
…ダンデくんは今の自分にも生活にも満足しているんでしょう?」
彼の話を聞いて共感する箇所は多かった…
…でも…私と違って彼は人生を謳歌してるし、自分に誇りだってきちんと持っている…