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□むらさきのはらわた
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いつものように2人で談笑でもしながら研究の続きをしようと彼を待ちながら朝から研究室に籠っていると、いつもより早い時間に彼はやってきた。
扉の施錠が解除される音がして、ああ彼がやってきたんだと浮き足立つ心のままに振り返る。そこにいたのは、いつもとは違う、怒りと憎しみをあらわにした彼だった。

「なんでお前はいっつもいっつも…! 後からやってきてすぐ追い抜かして、俺のこと見下してたんだろッ!!」

激昂した彼に突き飛ばされ、研究用の机に倒れ込む。器材が押し退けられ、幾つかの溶液入りビーカーが床落ちて割れた。
普段運動をしない私は、机に身体を酷く打ちつけた痛みに顔を歪め動けずにいた。その間に大股で近付いていた彼が、大きな手で私を机に縫い止める。
顎を掴まれ、強制的に彼と目を合わせられる。そうして見えた彼の表情が、私の頭のすぐ横に手をついて睨み付ける彼の方が、机に身体を押し付けられた私よりずっと苦しそうだったものだから。
私は、思わず彼の頬に手を伸ばしていた。

「…なんだよその顔は。憐れな凡才野郎に慈悲でもくれてやろうってのかよ! 良いご身分だな天才様は!!」
「ちが、」
「違わない!! 違わないだろうが! 俺に一緒に研究しようって言ったのも、俺の話が面白いって言ったのも、天才の余裕なんだろ。だから、」
「…二度と慈悲なんか垂らせない身体にしてやるよ」

そう言って笑った彼が手にしていたのは、紫の液体が入った注射器。私は、あの液体を知っていた。
去年の夏、研究の副産物として生まれた危険な――手足の筋肉を麻痺させて身体の自由を奪うだけでなく、感覚を鋭敏にする効果を持つ薬。
あれを打たれたら、と抵抗するも空しく、私の筋力では敵うわけもなく首の皮膚に針が刺さるのを感じた。




「ひっ、ぅ、ッ〜〜〜〜〜〜!!!」

お高くとまった天才様も、薬を打てばこのザマだ。凡才の俺に犯されて、暴力的な快楽に手足をばたつかせることも出来ずにみっともない顔を晒して痙攣を繰り返す。
こうしてみれば、いつも苛立ちと劣等感しか感じなかった綺麗な顔も悪くないものに見えた。飴色の指通りのいい髪が机に散らばり、頬に張り付いている様は醜い征服欲を満たされる。ナカの具合がいいのも、それを増長させた。

「いい顔だなぁ、星宮。そんなに気持ち良いか?」
「はっ、ア、きもち、いいっ…ふッ、あ、〜〜ッ!!」

ズン、と勢いをつけて最奥を突けば、大きく背を反らして絶頂する。舌を突き出し、はくはくと空気を求めて口を開閉する様は無様で、ようやくこの天才様を俺と同じ負け犬に堕とせた気がした。でも、まだ足りない。
俺が味わわされた屈辱は、こんな痴態だけじゃ灌がれない。もっともっと、生きてることが嫌になるくらいの屈辱を、こいつにも味わわせなきゃ気が済まない。そのための準備はもうしてある。
これからこいつを俺のいいように出来るんだと思うと胸が高鳴って、それまでのどんな射精より気持ちのいい一発を中に出した。

「中に出すぞ、星宮ッ…!」
「あっ、ひ、ぁ…!」

昨日まで俺を嘲笑うように常に笑みに細められていたアイスブルーの瞳は今や蕩けきって、余裕どころか「気持ちいい」以外の感情すら見て取ることは出来ない。
流石は天才様の作った薬だ。自分が捨てた発明品の最初の被験者になった気分はどうだ?どうせ答えられやしないだろうがな。
びくびくと絶頂の痙攣を繰り返していた身体が、やがて意識を失いカクンと脱力する。いいタイミングだと陰茎を引き抜き、死体のようにぐったりと伏す身体を持ち上げて研究室の奥へ持って行く。星宮は知らないだろうが、この研究室には隠された部屋があるんだ。
隠された部屋の中央には手術台のようなものがあり、被験体の身体を固定するためのベルトもある。そこへ星宮の身体を寝かせ、手足をベルトで台に固定してやる。そうしたら予め運び込んでいたスーツケースを開き、中から手術着とビニール手袋を取り出して着用し、更に牛刀に似た大きな刃物を取り出した。
手術台のすぐ横に立ち、星宮の左腕の関節をビニール越しに確かめる。俺は素人だから、やりやすい関節から断つつもりだ。グリグリと骨の継ぎ目を何度も確認していると、どうしてもこれからのことを考えて興奮してしまう。堪えきれず溢した笑い声が、静かな部屋に小さく響いた。
意識のないうちにと強力な麻酔を打ち、準備は整った。さあ始めよう。牛刀をしっかり両手で握って、星宮の左腕目掛けて思い切り振り降ろした。


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