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「祥さま、ごめんなさいっ……」



そのまま泣きじゃくること数分
何も言わなかったけど、ずっと背中を撫でてくれていた
その大きな手がすごく暖かかった



「……すまないね、辛い思いをさせて」
「違いますっ 私、私が……ごめんなさい」
「落ち着いて雛菊。誰も君を責めたりしない」



聞こえる声は優しくて
私を見る目は穏やかだった
私の知る、かつての祥様がそこにいた



「……当主は正式に匡になるだろう。俺は僧正として、八大に入ることになりそうだ」
「僧正様になられる訳ですね」
「そうだね。そして俺も実沙緒の元に行く事になるだろう」



それはつまり、人間界へ下りるという事



「……そうなれば、中々お会いすることが出来ませんね」
「そうでもないよ?その気になればいつだって会える。君が望めば、だけど」
「私の事、赦して下さるんですか?」



そう尋ねると、祥様は私の右肩に触れた



「俺の方こそ、雛菊に赦してほしい。綺麗な身体に傷をつけてしまって、ごめん」
「そんな、これは私が避けきれなかったからで…」
「違う。俺がつけたんだ。それにこないだの事も…あの場でああ言えた雛菊はすごいよ。先々代も分かっている」



そしてそのまま祥様は私に口付けた
それに応えるように私からも舌を絡める
たった2人しか知らないこの場所で
たった2人しか知らない事をする

背徳感と罪悪感、あと高揚感




(ああ、流されちゃダメなのに)














着物を正し、郷に戻ると何故か次郎様が川で溺れていた


(えええええーーーー!?)


助けに行こうとしたが匡様に止められる
きっと何かお考えがあっての事だろうけど
太郎様が傷ついた翼で必死に次郎様を掴んでいる
祥様の傷がまだ癒えていないんだ

先程までの行為を思い出した私の心はちくりと痛んだ
こんな幼い子にあんな酷いことを…
でもさっきの祥様と同じ人だとは思いたくない



(ああ私はなんて中途半端なんだろう)



「っああ!」
「太郎様……!」



お2人が溺れそうになったため印を結ぼうとしたが、匡様がお2人を抱えあげていた
すごく嬉しそうな顔で頭を撫でている




「これは……作戦成功という訳ですか?」



近くにいた悠さんに聞くと、彼は頷いた



「兄弟の絆を試されたそうです。まったく、あの人面倒見がいいから」
「あの当主の元で働くなんて、楽しそうですね」
「ふふ、たしかに」



いつの日か祥様と匡様も
お2人のように笑い合う日が来るんだろうか
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