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こんにちは、と声をかけると住職さまが慌ただしく出てきた
先々代より頼まれていた包みを渡し、そのまま中に案内される



「お忙しい所申し訳ございません…」
「いやあ少しバタついていてね、こちらこそ申し訳ない」



ここは庇翼院
戦争などで親を失った子供たちが引き取られる場所
ここで育った子達は皆が本家の養子となるため、祥様や匡様のご兄弟というわけだ



「お〜久しぶりやな雛菊」
「お久しぶりです。剛さんもお変わりなく」



子供たちを抱えて遊んでいる彼
歳も近いことから何かとよく話す間柄だ
ちなみに匡様と仲はよろしくないらしい



「で、今日はどうしたんや?」
「先々代からのお届け物を…せっかくなので剛さんのお顔を拝見しておこうかなと」
「そーかそーか」



冗談ぽく笑うと、彼も笑い返してくれた
丁度おやつの時間になったと呼びに来て
外で遊んでいた子供たちは全員あっという間に中に入っていった
やれやれというように剛さんは縁側に座る



「ふふ、もうお疲れですか?」
「あいつらの力半端ないねん。それが可愛ええんやけどな」
「さすがお兄ちゃんですね」



のどかな昼下がり
なにもかもどーでもよくなるような空
剛さんは不思議そうに私の顔を見た



「なんや前よりも色っぽなった?」
「へ?」



予想外の質問に変な声がでる



「どうしてそう思われるんですか?」
「や、なんとなく。女っぽなったなぁて、知らんけど」
「気のせいですよ。それか剛さんが私に惚れたか」
「それはないな」



ですよね、と笑い合う
正直そう言われてぎくりとした
もし仮に万が一私に色気が出たとすれば
それは確実にあの日の夜のせい
いつも以上に優しくて
でもしっかり男の目をした祥様
一夜限りと分かっていても、つい次を期待してしまう
そんな幸福な夜だった



(まぁあれからマトモに会ってないんですけどね!)



たかだか使用人の私が必要以上に当主候補と馴れ合っていると、あらぬ噂が立ちかねない
だから極力お屋敷の外に出る仕事を請け負っている



「せっかくやし雛菊も遊んでくか?」
「そうしたいのは山々なんですが、この後も先々代のパシリ……もといおつかいがありますので」
「言うてもうてるやん」



また来ます、と約束をし庇翼院を後にした



「……」



その様子を見られているなんて思いもしなかった
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