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あれから祥様にお会いすることなく数週間が過ぎた
郷はといえば、匡様を支持する声が急激に増え正式に当主様になられることが決定しそうだ



「雛菊どの〜!見てくださいこれ!」
「次郎様、如何なさいましたか?」



全快した次郎様と三郎様
太郎様も身体の傷は癒えたが、心の傷がかなり深くまだ外に出られないそうだ
天気のいい昼下がり、嬉しそうに駆け寄る次郎様を受け止める
その手には桃色のビー玉のようなもの



「悠どのが教えてくれたんですけど、桃色勾玉っていう万能の薬だそうですよ!」



うーん、明らかにビー玉だけど



「すごくお綺麗ですね。困っている人がいらっしゃったら、是非助けてあげて下さいませ」
「うん、そうだよね!じゃーね!」



元気にどこかへ駆けていく後ろ姿を見送り、物陰に隠れていた匡様と悠さんに声をかける
次郎様に声をかけられた時から「余計なこと言うな」オーラが半端なかったのだ



「お2人揃って……これは何かの作戦ですか?」
「まーな。あの勾玉を捨てたら、次郎を八大には俺がさせない」



助け合えない兄弟なんて、と小さく呟く匡様に胸が痛んだ
悠さんも神妙な面持ちをしている
確か令様とご兄弟だったはず



「そういやお前、傷はもう大丈夫なのか」
「ええ、ばっちり。充分盾としての役目を果たせるかと思います」
「頼もしいな」



それでは、と挨拶をして私はある場所に向かった










「つめたい」



そこは一本桜の湖
手を触れてみると澄んだ水面に波紋ができた
どんどん広がるそれを眺めながら、来る筈のない人を待つ

先々代の尋問(と勝手に思っている)があったあの日から毎日足を運んではいるが
一向に祥様が現れる気配がない
まぁ本家の人間に監視されているんだとしたら、抜け出すのも一苦労だろうし
なにより



(裏切った私を、赦してくれる訳が無い)



ここで一緒に桜を見たあの夜が
はるか昔のように思える
あの幸せな時間は、もう訪れないのだろう



「……祥、さまっ」



1人の空間という安心感から
目から涙が溢れてくる
小さい時から慕っていた祥様
世話係の人には知らないけど、私には一切手を上げることが無かった
すごく優しい兄で、尊敬していた



「……雛菊?」



聞こえるはずのない声
その方向には会いたかった人物がいた



「……祥様っ!」



何も考えず、その胸に飛び込む
かつてと同じように優しく包み込んでくれた
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