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いよいよこの日がやってきた
一足先にお屋敷に向かい、こき使われる日が



「くれぐれも気をつけろよ」
「あら、それは豊前様に仰ってくださいな」
「……まぁそうか」



私が飛べないという事はごく一部の人以外知らない
だから出発は夜 見送りも最小限
というか私なんかのために当主様自ら来てくれるなんてビックリだ



「ま、何かあっても俺の速さと雛菊の力があればどーにかなるでしょ」
「豊前様に褒めて頂けるなんて光栄です」



ふふ、と笑うと匡様はため息をついた
彼が心配している理由もわかる



「大丈夫です。郷に内通者でもいない限り、私が居ることなんて鵺には分かりませんから」
「ああ…じゃあ頼んだぞ、豊前」
「分かりました」



恥ずかしいかなお姫様抱っこをしてもらい夜の空へと飛び立った














「うわーほんとに速い」


久しぶりに見る外の景色に少なからず興奮した



「雛菊大丈夫?寒くないか?」
「大丈夫です、豊前様暖かいし」
「可愛いとこあるんだ。初めて知った」
「えーなんですかそれ」



くすくすと笑いながら街を見下ろす
キラキラとしていてまるで星空のよう



(綺麗……)



祥様と一緒に見たあの桜には敵わないけど…と考える
そういえば随分と祥様のお顔を見ていない
確か最後にちゃんと見たのは、桃色勾玉大作戦(って匡様が言ってた)の時だから
なんて思い出して少し寂しい気持ちになった
しばらく経ち、豊前様が口を開いた



「雛菊、ひとつ聞いていいか?」
「なんですか?」



先程より声のトーンが少し下がった
豊前様は真っ直ぐ前を見たまま続ける



「……もし祥様が当主の座を諦めてなかったら、どうする?」



目線だけ私に下ろした
青の瞳が私の目よりも奥を見ている
嘘をついてもすぐに見抜かれるだろう



「……私の主人は、匡様ただ1人です。例え祥様であっても、きっと私は排除する」



その言葉に嘘偽りはない
兄のように慕っていたし、先代が失踪されてから祥様との時間が増えたのも確かだ
だけどあの方のやり方は好きになれない



「それは多分、豊前様が匡様に仕えてらっしゃる理由と似ていると思います。先代とゆり様の為に…」



私はこの命を、匡様に捧げる義務がある
そう伝えると豊前様は短く「そうか」と言った
彼の横顔はなにか吹っ切れたような、そんな顔をしていた
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