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お風呂から上がると豊前様は先に飲んでいた
再び乾杯し、テレビを見ながらのんびりと時間を過ごす
郷を出たのが遅かったということもあり、かなり夜も更けてきた
小さく欠伸をすると見られていたようだ



「そろそろ寝るか」
「そうですね」


先に豊前様に床についてもらい
ある程度片付けをし、歯磨きを終えると後ろに気配を感じた



「ちょっと豊前様っ 降ろしてください〜!」
「駄目。俺に一人寂しく寝ろって言うの?」



米俵のように抱えられ、先程案内した彼の布団に降ろされる
そして脱出する間も与えられずに
がっちりとホールドされた
抵抗しようにも関節を押さえられているから身動きが取れない



「寝技は俺の得意科目よ」
「勝てる気がしません…諦めました…」
「うん、物分りの良い子好き」



豊前様の胸に頭を埋めると、背中に回った腕の力が少し緩んだ
これ以上の事があってはならないと気を張っていると豊前様は予想外の事を口にした



「…祥様とこういう事した事ある?」
「え…」



どきりと心臓が跳ねる
なんでこの人は、今それを聞くんだろう



「……祥様の彼女だとしたら、手を出しちゃまずいでしょ?俺」
「あー…どうなんでしょうね」



あはは、と笑いながら
頭では祥様の事を考えていた
確かに、何も無い訳でじゃないけど
彼女…つまり恋人のような関係ではない



「私にとっては大切な兄ですよ。今も、昔も」














大切な兄、ねえ
少し警戒してるみたいだしこれ以上聞くのは怪しまれるか
酒を飲んでた時からちょこちょこ探りを入れていたが、恋人関係ではないようだ

幼少期からずっと一緒にいるから確かに家族のように捉えていてもおかしくはないが…
小さな背中を撫でていると規則的な寝息が聞こえてきた



(祥様といえど……男として何もしない方が難しくねぇか、これ)



天狗と鵺の混血児
先代から紹介された雛菊は、不思議な色気を纏っていた
純血の天狗ではないからこその独特な雰囲気



「ん……祥、さまぁ」



その薄い唇から小さく漏れる名前



(泣いている……?)



頬を伝う雫を指で拭い、その唇に自分のものを重ねた
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