向日葵

□6,切ない雨
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「ねぇ、精市。どこに行くの?」
「ここ。」

少し涼しい風が通るバルコニーに来た。
星は見えないけど、川の音と虫の鳴く声が聞こえる。
とても心地良い。

「気持ちがいいね」
「あぁ。」

機嫌が悪いのか素っ気ない。

「ねぇ、精市。さっきどうして名前で呼んでくれたの?」
「ダメだった?」

素直にならなきゃ。蓮二がせっかく背中を押してくれたんだ。ここで素直にならずにいつなるのよ。
「ううん、正直嬉しかった。小学生の低学年の頃までは名前で、、、奈緒って呼んでくれてたよね。なんか懐かしいなぁ、、、またあの頃みたいに精市と毎日一緒にいたいよ...」
「俺は幼い頃から身体が強くはなかっただろ?それで迷惑をかけると思って、少し距離を作る為に名前で呼ぶのを辞めたんだ。だけどさっき柳がお前に好きだと言ってたのを聞いた時に咄嗟に呼んでしまったんだ。」
「え?...それって...」
「うん、俺は幼い頃からお前が好きだったんだよ。今もずっと。伝えるつもりなんかなかったんだ本当は。だけどもう我慢できない。俺はお前、奈緒が好きだよ。」

嬉しくてたまらず涙があふれた。

「ねぇ、精市。私もね、精市の事ずっとずっと大好きだよ。昔も今も。」
「ありがとう。だけど俺は奈緒と付き合えないんだ。すまない。」

そう言ってどこかへ行ってしまった。
私は訳が分からない。
なんで?どうして?精市は私の事好きだって言ってくれたよね?私も素直に好きだって言ったはず、、、なのになんで...?
さっきの嬉し涙は悲しい涙に変わった。

「岡崎、風邪をひくぞ。」
肩に立海ジャージをかけてくれたのは蓮二だった。

「ねぇ、蓮二。なんで精市は、、、私、素直に言ったよ?どうして精市は、、、」
「...。俺にも分からない事はあるのだ。ただな、精市がお前を本当に大切にしているのはひしひしと伝わった。」
「大切ならどうして...。うぅ...」
「今は心が落ち着くまで泣くといい。俺が一緒にいる。」
「ごめんね蓮二...ありがとう...」
「気にするな。俺がしたくてしているのだから。」

精市の事が好きなのに。他の男の子に頼っていいのかな。しかも蓮二。
蓮二の優しさに甘えていいのかな...。
私って最低だな...。

「岡崎、お前は最低などではない。先程も言ったが俺がしたくてしているのだ。いつもマネージャーとして俺たちを支えてくれているだろう。今度は俺がお前を支える番だ。お前がいてくれるからおれたち立海はなりたっているのだから。たまには人に頼るのも悪くは無いぞ。」

蓮二の言葉で今私はどれだけ救われただろう。
とても嬉しいのに、頭の中は精市の事でいっぱいだ。

空からも悲しく、切ない雨が降ってきた。
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