My name is cassis

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転2
(純黒の悪夢の大変な捏造)


バーボンとキールが捕まった。
キュラソーから、彼ら2人がnockだという内容のメールが、送られてきたらしい。
キュラソーの行動を読めていなかった、私の責任だ、と思う。もっと早くにハッキングをかけておけば。


車の中で、イライラが隠せない。ハンドルをギュッと握る。
早く、早く、早く行かなきゃ。



「ジン!」
バーボンとキールが捕らえられた倉庫につき、車を乱雑に止めて、中に入る。
と、チッと舌打ちが静かに倉庫の中に響く。
「…何故来た、カシス。」
「何故って…またあなたが仲間殺しをしようとしてるからでしょう。」
「こいつらはnockの疑いがかけられてるんだ。当然の報いだろ。」
「でも、殺していないってことは、nockだという確信がもててないってことですよね。」
バーボンが言う。

かけられた手錠は…あれなら、彼は自分で外すことができるだろう。
後は、ジンが今向けているあの銃をどうにかすることだけね。

と、突然ジンが引き金を引いた。
サッと血の気が引く。無意識に、ジンに銃口を向けていた。
「おいおい、アニキはキールが手錠を外そうとしていたからそれを打っただけだぜ。」
落ち着けよ、とウォッカが私に言う。

「当然でしょう。濡れ衣を着せられて、逃げたくもなるわよ。そうやってあなたは何人もの優秀な人材を殺してきた。」
「さぁ、俺は殺した奴はどうも覚えてられないもんでね。」
すっと心が冷えるのがわかる。
どんな思いで、明美がお前を信じたと思っている。
どんな思いで、明美がお前に殺されたと思っている。
「…殺された人達も、お前なんかに名前を覚えてもらいたくないでしょうね。」
良い心がけだわ、と言いながら、カチとセーフティバーを下げる。
「それで引き金を引いてみろ、お前こそ反逆者として殺されるぞ。」
ギロっと私を睨むジン。これぐらいじゃ、私に銃口を向けてくれないか。
「あら。あなたを殺して死ねるなんて、本望もいいところだわ。」

と、突然パーンと銃声が鳴り、電気が消えた。
咄嗟にジンが持つ銃を打って彼の手から飛ばした。
その飛ばした銃を取りに行こうと走った時、誰かに腕を打たれた。
マッチをベルモットがつける。
「アニキ、大丈夫ですかィ?」
「ああ。チッ」
ちら、と見ると、よかった。バーボンは上手く逃げられている。
「ジン、あなたカシスを打ったの…?」
ベルモットが信じられない、と言う口調で言う。
「先に打ったのはカシスの方だ。」
「あなたから銃を奪うために打ったのよ、気づかないの?」

ベルモットとジンが言い争うのが聞こえる。
ウォッカがバーボンがいないことに気付いて、さらに言い争う声が大きくなる。
ゆっくりと立ち上がって、ジンから奪った銃で、上手くドアをガン、と開ける。
「そんな言い争いしてるからバーボンに逃げられたわよ。」
つ、と冷たい目でジンを見る。
「チッおい、追うぞ。」

大丈夫、とベルモットに去り際話しかけられた。
ベルモットは、私を育ててくれた母親のような存在だった。

1人で倉庫に残り、キールの手錠を取る。
「ありがとう、カシス。助けられたわ。」
「あなたがnockじゃないことはわかってるから。」
嘘だけど。キールは、このままこの倉庫に残る、と言った。

キールを置いて、倉庫を出ると、そこにはバーボンが立っていた。
「ありがとうございます、助けていただいて。」
「バーボン。あなたは早く逃げなさいよ。」
「いえ、その前に行かなければいけないところがあってですね。」
送っていってもらえませんか、と笑うバーボン。

はぁ…いいように使われてるわね、私。


車を運転しながら、話しかけられる。
「…腕、大丈夫ですか。」
「ええ。」
助手席の方から手を伸ばして、ゆっくりとなにかを巻かれる。
「…っ」
「すみません、手持ちのものが、これしかなくて」
「…普通に包帯じゃない。謝ることなんて。」
「ああ、いや、これ、僕が昨日自分に巻いてたやつなんですよね。」
「…そう。まぁ、なんでもいいわよ、ありがとう。」
はいっポーーカーーフェイスーーーー突然核爆弾落としてきたーーーーーー
「昔から思ってましたけど、ジンとカシス、仲悪いですね。」
「昔からって。つい最近からよ。」
「そうなんですか?」
「宮野明美っていう子が殺されたでしょ?あの子、私の親友だったのよ。」
「…ああ、赤井秀一の件で消された例の。」
「…ええ。」

シン、となる車内。

「でも妹のシェリーが逃げて生きていると聞いて、安心したわ。」
「…それ、誰にも言わないでくださいね。」
「もちろん。」

私たちは結局、お互いにある程度だけだけど、秘密を共有している。
シェリーの件を知ったのは、私が激しく泣き崩れたところを、バーボンが見ていたから。そっと、耳打ちをしてくれた、彼女は生きてます、と。

バーボンは案外、私に情報を強要してこなかった。
きっと、私を"使える駒"として残しておきたいんだろう、と思った。
来たる日の時に、1番の情報を伝える立場であるために。
それなら、とことんこの立場を守らなければ、と思っている。


…の矢先、今日は早速ジンに銃口を向ける失態だ。
反省はしている。

「でも、俺のこと、ここまでして助けてもらわなくて、大丈夫ですよ。」
バレた時は、その時なので、と言う。
「…そうね。ちょっと今日は、気が動転してた。」
「…仲間意識が強いと評判があったから良かったものの。あなたには、生きていてもらわないと困るんですよ。」
「そうね、心がける。」
シュン、となる。そりゃ、そうよね。私がいないと倒せる相手も、倒せなくなるわ。バーボン贔屓をしてるなんて思われたら、それこそ、バーボンの命が危なくなるってわかってるでしょうに。
「わかってないですよね。」
「え?」
「…だから、俺が死んでも、あなたはあなたの世界で生きてほしいってことです。」
「?私、あなたには生きていてもらいたい。」
私の命なんてどうでもいいじゃない、と付け加える。
「…っだから、そう言うことじゃなくて。」
はー、とため息をつくバーボン。
「私にまで気を使わなくていいわ。」
きっぱりと断る。
「…俺は、カシスにも生きていてもらいたいですよ。」
虚をつかれた。
思わずバーボンを見る。バーボンはまっすぐ前を見ていた。
「…っそれは、嘘でも、願ってもないぐらい嬉しいわね。」
思わず涙目になる。
自分が、幸せに思うと涙目になってしまう習性があることを、彼に出会って初めて知った。

「死なないでね。」
「言われなくとも。」
にこり、と笑って東都水族館の輝かしいネオンの方へ、バーボンは去っていった。



東都水族館の駐車場で、ぼんやりと車に座っていた。ズドドド、という銃撃戦の音。あーあ、今回も派手にやってるなぁ。誰がこれをもみ消しするんだろ…。まぁ多分、そういうのは私の役目。

私は、今回の作戦には参加しなかった。
ジンが私と同じヘリコプターに乗りたくない、と言ったそうで。
ちらり、と自分の腕に巻かれた包帯を見る。
あなたにこの腕を捧げられることが許されるなら、むしろ私は幸せなのに。


はぁ…と大きくため息をついて、自分の家に帰っていった。
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