短編集

□お昼ご飯
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警察学校にて


四限が終わって、お昼休みになった。
すみれは、いつものように木の下で、お弁当を食べ始めようと、蓋を開ける。

と、草を踏む音がして、人が近づいてくる気配がある。
ちらりと上を向くと、うちの学年で1番の人気者、兼、体術含め成績トップ。降谷零だ。
もちろん噂では耳にすることは多いけど、個人的に話したことはない。縁のない、高嶺の人だ。

まぁ、私に用があるわけじゃないよね。
そう思って、特に気にすることもなく、また視線を下に戻し、黙々と食べる準備を進める。

「…おい。」
…。完全に私に向かって声が投げかけられているような気がする。いや、気がするだけだけど。
ゆっくりとまた、視線をあげる。
と、褐色肌のその人と、バチっと目が合う。いや、実際はそんな音は出ていないんだけど。

「は、はい。」
「…。」

無言の時が流れる。なんなんだ、この人は。
私に何か用でもあるのか。
…ま、まさか、教官に呼ばれたりとかしちゃってるのか?お前はもう退学だ、みたいな。それで言いにくくて戸惑ってるのかな?
さぁ、と血の気が引くのがわかる。ありえる、かもしれない。いや、なにもしてないけど、私は。…なにもしてないよね?
降谷くんが急にそっぽを向いて小さく何かを呟いた。
…小さすぎて聞き取れない。
「…な、なんですか?」
「…だから、一緒にメシ食べないか」
「…は?」
素で素っ頓狂な声が出たのがわかる。
いや、だってこいつ…なに言ってんの…?
は?と言われたことに少々傷ついているのだろうか。降谷くんは少し目が泳いでいる。

と、途端にぴーんと理解する。ははーん、さては、これは罰ゲームだな?
うちのクラスで1番ブスな女とご飯を食べなきゃいけないみたいなそういうあれだな?なるほど。理解理解。
「あっ、えっと、いいですよ。」
全く、今時の男の子たちの罰ゲームは酷だなぁ。かわいそうに。すぐに終わらせてあげるから、大丈夫、まかせなさい。空気になってあげます。
心の中でぐっと応援する。罰ゲーム頑張れ!
「…本当か?」
わかりにくいが、なんとなく、降谷くんの表情が明るくなったような気がする。くぅ、この顔面偏差値高男め。周りに薔薇の幻影が見える。
「え、ええ。私で良ければ。」

〜〜〜〜

無言がつづくご飯タイム。
私も降谷くんも黙々とご飯を食べ続けている。
まぁ、特に話すこともないし、彼はただの罰ゲームだし。
そう思って、箸をいつも通り口に何度も運ぶ。今日の力作、ピーマンの肉詰めに手をかけようとした、その時。

「いつもここで食べているのか?」
「…?え、ええ。まぁ。」
「そうなんだ。」

シーン。
なにがしたいんだこいつは。私は無言で大丈夫だからわざわざ和ませようと気を使わなくてもいいのに。
私はいつも食べるのが遅いから、彼が先に食べ終わった。
…のに、まだ立ち去ろうとしない。

「また明日、ここに来てもいいか。」
「…え?」
またもや静寂を破ったのは降谷くん。
ちら、とまた降谷くんの顔を見る。一度目があったかと思うと、フイ、と顔を逸らされた。
「嫌か。」
「い、嫌とかそういう次元の話ではなく、なぜ…?」
思わず、心の中の言葉がそのまま出てしまう。

「…っ」
小さすぎて、何を言ってるのかが聞こえない。
「え、何?」
「っだから、お前と一緒にいたいからだよ」
何言ってるの…?と思わず口に出そうになったのが、彼の雰囲気をなんとなく察して、なんとか耐える。
彼はそっぽを向いているが、耳まで真っ赤に染めているのが、こちらからでも見えてしまう。
つられて私も、顔が熱くなってくる気がする。
「…えっ…と、ここに来るのは、自由なのでは、ないでしょうか…」
「本当か?」
「は、はい」
「明日、お前も来いよ。」
そういうと、そのまま振り返らずに走って去っていってしまった。

…意味がわからない。なんの目的で?
私のことが、好き、とか…?一瞬、ありない案が頭に浮かぶ。
いやいやいやないないないないない。
だってあの、スーパーマン降谷零だよ…?
超絶美形、成績優秀、運動神経抜群どころか、もう神レベルで、容姿端麗(あれ、言ったっけ)の降谷零だよ…?
かくいう私は、ただの警察学校にいるだけど、超絶平凡のモブB。
…わからない。なんでだろう。

わからないことは考えても仕方ない、と、考えることは、諦めた。
少なくとも、好意からではないことだけは確か。それがわかっていればいい。





〜降谷零の恋が実るまで、あと1年。

(強制終了)
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