My name is cassis

□起
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私のコードネームは、カシス。名前は、ない。
不幸なことに、生まれるとすぐに、もう私の人生は決められていた。
この、黒をモチーフにした組織に、一生を捧げること。
そのために、さまざまな教育を施された。
人も、たくさん殺してきた。そうしないと、自分が殺されるから。

嫌だとか、そういう感情を持ったことはなかった。
それが、当たり前だったから。
人を1人、殺していくごとに、自分の血の暖かさを、感じなくなった。




それなのに、あの人にあってから、すべてが変わってしまった。

「初めまして。バーボン、これが僕のコードネームです。」
金色の髪に、褐色の肌に、垂れ目に青い瞳。目が、合わせられない、と思った。吸い込まれてしまいそうだ、と思ったから。
「は、はぁ。」
いやいや、なんだその返事は。と自分で突っ込む。
「本日から、カシスと一緒に任務につくことになりました。宜しくお願いしますね。」
ニコッと笑う、バーボン。
「あ、はい。私はカシスです。よろしく。」
この胸の高鳴りの意味を、知るまでに時間はそうかからなかった。


うーん、私って面食いだったんだな。
まぁ、別に恋を叶えたいなんて、思わないけど。
淡々と今日の任務をこなしながら考える。

私は、基本的には、組織の機械類を統制する役割を担っている。
メンバーの管理や、我がコンピューターに対するハッキングを阻止したり、逆にハッキングしたりする人。

そして、バーボンやベルモットの"潜入"を完璧にするために、情報を集めるのも、私の役割。

カタカタ、とコンピューターをいじっていると、部屋にノックの音が聞こえた。
「はい、どうぞ。」
失礼します、と誰かが入ってくる。
「カシス、この間お願いしてた情報、手に入れました?」
この声は、バーボン。
「ええ。そこの机の上にあるわ。」
「さすがカシス。仕事早いですね。ありがとうございます。」
「それはどうも。」
絶対に、目は合わせない。
合わせたら、自分の脈の調整と、ポーカーフェイスができなくなる。絶対に。
「では、失礼します。」
カチャ、と閉められたドア。

「…ああああああ!!!」
周りに聞こえない程度に、叫ぶ。
生きてきてよかった!!!かっこいい!!
私の名前呼んでくれた!!!うれしい!!!

よし、落ち着け、私。
息を整えて、また仕事に戻る。


自分が彼に特別な感情を持った、ときづいた頃。
彼は、私からは、ずっとずっと遠い存在だということを、気づいてしまった。
自分のハッキング能力は、集中力によって、成功率が左右される。しかも、仕事以外となれば尚更。
好きになってしまったが故に、引き出された集中力によって、警視庁へのハッキングを成功させてしまった。
あの時の自分を、殴りたい。自分がこんな行動派の人間だとは思っていなかった。

バーボンは、私が、命に換えても守ると、その時に決心した。バーボン、いや、"降谷零"は、日本という国に住む人々の命を背負って、ここにいるのだ。
私とは違う。私はたかだか自分の命しか、背負っていない。妙に自分がちっぽけな存在だと気づいて、同時に、醜い存在だと思った。自分を、嫌悪するようになってから、組織の仕事が辛くなった。
人を、殺したくない。
ジンには、薄々その感情に気づかれ、お前はもう実戦に出るな、と言われて、事務の業務に徹する日々。
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