My name is cassis

□承
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ある日、スコッチというコードネームの人物が、公安警察のnockだということが判明した。判明した理由は私は知らないが、なんでも、その日中にライという人物に心臓を撃ち抜かれたらしい。


その夜、ジンとウォッカ、私、そしてライとバーボンが緊急収集される。
わたし個人としては、バーボンと会えるから嬉しかったが。
バーボンの、顔色が悪いのにすぐに気づく。
そういえば、同じ警察だから、知り合いだったのかもしれない。ああ、バーボンに傷ついて欲しくないのに。

「おい、皆が知っての通り、ネズミが1匹、この組織に紛れ込んでいたみてぇだ。そこで、おい、ライ。お前が手に入れたやつの携帯を出せ。」
「…奴は俺の銃を盗んで自分の胸ごと携帯を打った。もう使い物にならんぞ。」
「いいから、出せ。」
コト、と机の上に置かれた穴の開いた携帯電話。
「おい、カシス。やれ。」
すっと、その携帯を手に取る。少し解体して、観察する。
「無理よこれ。ワーキングメモリが破壊されてる。いくら私でも修復は不可能。」
本当は、それでも少し修復できるんだけど。もし、この携帯にバーボンの正体に関する情報があったら、と咄嗟に嘘をついた。

「…チッおい、ライとバーボンはそいつの死に立ち会いながら何も聞いてねぇのかよ。」
「ああ、聞く前に自分で打ってしまったからな。」
「僕も、もう死んでいる姿しか見てませんよ。」
「…ふん、まぁいい。今回、ここで集まってもらったのは他にネズミがいねぇか、探すためだ。」
「…それで?僕達に何をさせようとしてるんですか?」
「つまりアニキは、お前らとこのカシスで、組織の奴らの携帯のハッキングをかけろっつうわけですぜ。」
「は?何それ聞いてない。」
それ、どんだけ大変だと思ってんのよ。
ハッキング舐めてんの?

「僕も反対ですね。こんなやつも含めて3人で動くなんて正気じゃないですね。僕とカシス、あるいはライとカシス2人でいいでしょう。」

え?2人でとか、それはそれで大問題。
思わずバーボンの顔を見つめる。…。途端に今の不満が消しとんだ。ものすごく、辛そうな顔を、押し込めている、気がする。そうだよね、自分の大切な仲間を殺した人と組むなんて、無理よね。

「…それもそうだ。まぁわかった、じゃあバーボンとカシスでこの任務に入れ。ライは、バーボンと交代で参加しろ。」
「了解。」
「おい、カシス。お前もだ。返事しろ。」
「…了解。」

覚悟を、固めた。

ジンとウォッカがいなくなった後、
「カシス、とりあえず、これ、僕の携帯です。」
すぐにバーボンに携帯を渡される。
「はい、どうも。」
「ん。」
ライには投げて渡される。
「はい、たしかに受け取りました。明日までには終わらるから。」
「じゃあ僕もその手元を観察しなきゃですよね。立ち会います。」
ニコ、と笑うバーボン。
無理して笑わなくていいのに。



カタカタカタカタカタ、と文字を打ち込んでハッキングをかけていく。バーボンのは、丁寧にやらないと。信頼してないわけじゃないけど。
「さすが組織1のハッカーですね。的確で驚きます。」
驚いた声を出すバーボン。

カタ、と一文字打った後に、思わず言葉を漏らす。
「私は、スコッチが少し羨ましいわ。」
「…どういう意味です?」
ものすごい冷たい声色を放つバーボン。
「nockの肩を持つんですか?」
「…いや、そうじゃないけど。きっと任務を途中で終えることになって、後悔はたくさんあると思う。でも、」
一旦間を置いて、言葉を選ぶ。
「自分の命を賭してまで、守るべきものを守りきった誇りを持って、死んでいったのよ。…きっと、幸せだったと思う。そんな彼を、私は、尊敬するわ。」
「…意外ですね、カシスがそんなこと言う人だとは思ってませんでした。」
少し息が詰まったように息を吸うバーボン。
私も、それ以上は何もいえなかった。別に、バーボンを励ますためじゃなくて、言っただけだったけど。
少し間が開いた後、バーボンが滲み出すように言葉を紡ぐ。
「…しかし、組織を裏切った大罪人を、僕は忌むべきだと」
ドンっと、言葉を遮って、机を勢いよく叩いた。
「これ以上喋らないで。集中できない。」
私のせいで、バーボンの口でスコッチの悪口を言わせるなんて、絶対に嫌。
「…すみません。」
素直に、バーボンは静かになった。




それから数日後、やっと、組織の主要メンバーの携帯ハッキングが終わりそうな目処が立った。
バーボンの車で残りの輩に会いに、向かっている途中。
「見たくもない個人情報を見せられてこっちも最悪な気分ね。」
いつのまにか、バーボンと2人きりという状況にも慣れた。
「しかし、携帯からnock、2人も見つけましたね。さすがカシスです。」
そう、見つけたものは、そのまま報告した。
真剣にやらないと、私じゃない人がハッキングをかけることになりそうだから、バーボンと、バーボンと話しながらやって気がそぞろだったライの携帯以外は、真剣にやった。

…この2人はきっと、殺されるのかもしれない。ごめん。でも、私は、この、目の前の人を助けるぐらいしか、生きる術を知らない。


「…でも、僕の携帯と、ライの携帯だけ、ハッキングの仕方、違いましたよね。どうしてですか?」
静かに尋ねられる。
「…あら、なんでそう思うの?」
「昔、ハッキングを少し齧ってた時があったので。」
「そう、まぁ単なる見間違いよ。それか、あの日私疲れてたからかもしれない。」
適当に言って、ごまかす。
「…そういえば、随分前に、この組織からの警視庁へのハッキングが発見されたって情報、掴んだんですけど、それってカシスですか?」
「…私、スコッチの情報を流した人じゃないわよ。」
本当に、知らなかったわ。と付け加える。
しまった、バーボンを探っていたあのハッキング跡を、焦っていたために、少し残してしまったのかもしれない。組織側からは完全に見えないようにしたけど、もしやすると、警視庁側からは…
「スコッチの他に、警視庁からのスパイが紛れ込んでるって噂、あるじゃないですか。カシス、何か掴んでないんですか?」
「ええ、何も…」
カチャ、と銃口を向けられる。
「本当ですか?あなた、スコッチのことをやけに庇ってましたし。何か、情報を掴んでいるとしか、思えませんけど。」
…いやいやいやいや。いやいやいやいや。ここまで徹底して演じられると、私が混乱する。
「本当に、知らない。」
「気付いてないんですか?あなた、嘘をつく時、必ず唇を噛む癖があるんです。」
えっそうなの?何それ気付いてくれてて嬉しい。
「吐いてください。僕も幹部の1人を殺したいわけじゃない。なんでそいつを庇うんですか。」
「…す、」
「す?」
「…好きだからですけど…」
い、言ってしまった。間接告白。
もうこうなりゃやけくそだ、と覚悟が決まった。
「…は?」
きょとん、とするバーボン。
これは多分、素で言っている。
よし、私も素で返してやろう。息をすーっと吸う。
「顔がめちゃめちゃ好みで…それで興味半分頑張って戸籍漁ってたら見つけちゃって…いやでも、もっと惚れましたね。自分の身を顧みず、日本を背負ってるなんて本当かっこいい、私の推し最高って思ったんで、これからその人のことを守ろうって思って今も生きてます 」
開き直ったオタクに勝てるものはいないだろう。
「…じゃあ、その旨その人に伝えてみればいいじゃないですか。」
少し、いやかなり引かれてるのがわかる。
はぁ、やってしまった…と後悔してももう遅い。
「…私は今まで多くの人の命を奪ってきたので。その人とは住む世界が違うのよ。」
「…そうなんですね。」
それ以来、バーボンは私に接触してこなかった。
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