My name is cassis

□転1
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人手が足りない、ということで、私も久しぶりに実戦に駆り出された。
ライと2人での作戦。

「おい。お前、何ができるんだよ。」
「…あら、私のこと信頼できない?基本、なんでもできるわ。」
「…人を殺したこともないような顔しやがって。」
すっとライの首筋にナイフを当てる。
ライが驚いた顔をする。
「私、人の意識を向けてる方向が読めるのよ。だから、こうやって気付かれないように今まで何度も人の首を切ってきたわ。」
「そりゃ、すごいな。」
お手上げだ、というように手をあげる。
そのまま、素直にナイフを仕舞う。

「じゃあ、私がハニトラかけて、ホテルの1305号室につれてくから、そこからは任せる。」
「…了解。それが、失敗した場合はどうする。」
「頸動脈切って帰ってくるわ。」
「自分はなるべく汚れ仕事をしたくないということか。」
「…まぁ、そうね。」
ごめんなさいね、と言いながら自分の身支度を整える。

背中が大きくあいて、足元に深い切れ込みのある、体のラインがはっきりと出る真っ赤なドレス。はぁ。めんどくさい。
髪の毛を高く上げてちらりとうなじが見えるように工夫。
化粧はいつもよりも濃い目にして、体には上品な香水をつける。

「…見違えるな。」
「そりゃどうも。」
これでも、2、3年前まではこういう仕事ばっかりやってましたので。
「じゃあ、また。」
「ああ。」
気をつけろよ、と声をかけられる。
今回の仕事は、そんなに大変なものではない。
落ち着かなきゃ、と言い聞かせて、問題のパーティー会場に入っていた。

「やぁ。」
と、入った瞬間に話しかけられたのは、
「バッ…」
金色の髪の毛をワックスで少し上げて、真っ黒のシャツとスーツ、赤いネクタイに身を包んだバーボン。
「こんなところで会えるなんて光栄だ。」
すっと腰に手を回されて、体を寄せられる。
耳元で、そっと囁かれた言葉。
爆弾が仕掛けられてる、危ない、と。
「…?」
つまり、ここには私の関係する案件の他に、なにかの事件が関わってるってこと、か。
「私も会いたかったですわ。お兄様。」
バーボンの首に手を回して耳元に口をつけて、何分、と尋ねる。
すっと、バーボンが私の体を離す。
「じゃあ、また。」
手をギュッと握った際に、手のひらに、に、まる、と書かれる。ふるふる、と手を振って別れる。

確実に殺さなきゃならない相手。
20分か…なら、私がやるしかない。



ターゲットは、…あそこ、ね。
早速、グラスをもってふらふら、とそのターゲットのところに行く。
と…肩が当たる。
「ってめーどこみてんだ…っておい、いい女じゃねぇか。」
「あら、ごめんなさい。少し、酔っ払ってるみたいで」
「へへ、いいってことよ。謝礼は、体でなぁ。」
すうっと背中からお尻にかけて手で撫で回してくる。はぁ、どうして男ってこういうの好きなのかしら。
「あら、嬉しいわ。もし良ければ、あちらで2人で飲まないかしら?」
一緒に歩き始め、手に仕込んでいた毒針を首筋に一瞬で刺す。と言っても、今回の毒は、普通の毒ではない。ただの興奮剤。この人が、心臓病、であるという情報から、この量で致死量に至ると調べていた。

そのまま、すっとその人から離れる。
とさっと倒れた音がする。
「おーい、また誰か酔っ払ってるぜぇ、おい、そこのスタッフ!」
そう、死ぬまでには後10分ほど、かかると思う。それまでは深い眠りにつくだけ。
とりあえず、任務完了。


目標の息が止まったのを遠目で確認する。

そして、時計を見る、あと爆発までは後5分。
バーボンは、どこかしら。
会場内を目で追っている、と。
「結局お前がやったみたいだな。」
これまた黒いタキシードに身を包んだ、いつものよくわからないニット帽を外した…
「…ライ。来てたの。」
「お前が自分につけてた盗聴器壊したんだろ。」
え、壊れてたの?胸に入れていた盗聴器を確認する。…バーボンがやった、としか…
「なんかごわごわしたから壊しちゃった」
てへっと言っておく。まぁ別にこいつになら雑でもいいだろう。
「…で、残り何分だ。」
「あと430。バーボン見た?」
「いや。とにかくブツはまかせて逃げるぞ」
「…先に行ってて。」
「は?正気か?いつまでここにいるつもりだ。」
「もしもの場合、客を避難させなきゃならないでしょう。」
「…チッどこまでお人好しなんだお前は。」
仕方ない、と隣でタバコに火をつけて吸うライ。
「べつにたのんでないからね。」
「お前に死なれると俺が困るんだよ。」
「それもそうね。」
ぱさ、とかけられる上着。
「それを着ていけ。」
「あら、ありがとう。」

ライと別れて、人混みに混ざって爆弾物がないか、とバーボンを探す。

「…なんでここにまだいるんです?」
御目当ての人は、案外すぐに見つかった。
「バーボン。爆弾は?」
「ああ、それならとっくにバラしましたよ。それより、」
「?」
「その、タバコ臭い上着、やめたほうがいいですよ。」
ぱさ、と上着を取られてバーボンが着ていたものに変えられる。
「…どうも。」
「さぁ、もう戻りましょう。あなたがここにい続けるのは危険ですよ。」
腰を引かれてエスコートするように会場から去るよう促される。
「聞きたいことがあるんだけど。」
「はい、なんでしょう?」
「なぜ、盗聴器を壊したの。」
「ああ、あれ、自分でつけてたんですね。」
てっきり気づいてないのかと、と微笑むバーボン。
「…そう、よ。」
よくわからない。彼ほどの観察眼を持っていれば、これぐらい見分けられるでしょうに。


会場となっていたホールの外に出る。
「じゃあ、私はここで相手と合流しなきゃだから。」
「ああ、そうなんですね。ところで。」
「なに?」
「この間の、あれって演技ですか?」
「…え?」
「好きだとかなんとか。」
急に顔に血が上ってくるのが分かる。
「っ演技なわけないでしょ。なによ突然。」
私を嘲笑いたきゃそうしなさいよ、と睨みつける。
「…あんなに僕に平然とくっついてきたのに。」
「仕事だから割り切ってるのよ。仕事でもそんな照れて欲しいの?」
その方がめんどくさいに決まってますよね、はいはい。
やれやれ、と肩を竦めながら自問自答形式で言ってやった。
と、もにゅっとバーボンの手で顔をつかまれて、くいっと顔を上向きにされ、バーボンの顔が近づいて、唇に、ふんわりとした、感触。
「…?!」
とっさに恥ずかしすぎて涙目になる。
「もっと、俺に溺れればいいのに。ハニートラップなんて、できないぐらい、俺のことだけを考えてればいいのに。」
つー、と唇を長くて細い指先で、なぞって、去って行ってしまった。

「…えっ何事…?」
思わず、心の言葉がそのまま口に出る。

後にライが来るまで、私はぼんやりと立ち尽くすしかなかった。
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