SPN season1

□Episode 0
1ページ/2ページ



『パパー!』
「誰がパパだ。」
『いいじゃん減るもんじゃあるまいし。』
それに言われた本人も満更ではない様子で微笑んでいる。ただ、2人は親子にしては似ても似つかない容姿をしていた。
女の子の方はアジア系の顔立ちをしており髪も黒で瞳の色もダークブラウンである。おそらく20歳いくか行かないかであろう。そして、中年の青いキャップを被った無精髭を生やしたやや小太りな男性は彼女と全く異なり見事なアメリカ人だ。しかし2人は一緒に暮らしていた。そういう経緯になったのは8年前に遡る。

 彼女の名前は名字名前。まだ中学生であり、その日は兄の隆弘と共に両親の結婚記念日を祝うための準備をしていた。
「なあ名前。これはどうする?」
隆弘は風船を膨らませまとめたものを名前に見せてきた。
『壁に飾ったらいいんじゃないかな。』
「おーけー」
2人は必死に飾り付けをしていた。その一方で両親はキッチンで仲良く夕飯作りをしていた。本来、今日はちょっと贅沢なレストランを予約しており家族4人でそこで食事をする予定であった。しかし、突然の嵐がやってきて車で行くのにも億劫になり家で祝おうと言うことになったのだ。今も家の外は大雨に強風で雷までなっている。
『それにしてもすごい嵐だよね。』
「ああ。なあこれはどこに飾る?」
そう言われ、名前は兄の方を振り返った。すると、兄の顔は血まみれになっており、思わず叫んだ。
『キャーーーーッ!!!』
「冗談だよ。」
へへっと笑いながら血糊であろうものをティッシュで拭き取る兄を見て、名前は頬を膨らませた。
『最低。』
「最高の兄貴だろ。」
ニヤリと悪戯っ子のように笑う兄を無視して彼女は再び手を動かす。
 名前は集中していたせいか、壁にかけてあった時計を見ると15分必死に準備をしていた。そしてふと我にかえると部屋はシーンと静まり返っていた。
『…お兄ちゃん?』
近くで一緒に作業をしていた兄の姿がない。それにキッチンからの両親の仲睦まじい声も聞こえてこない。聞こえてくるのは外の大雨の音と窓を叩く風の音のみだ。
『ねえ。ママ?パパ?』
名前はキッチンの方へ向かった。そしてその目の前にある光景に目を疑った。
『お、兄ちゃん?』
彼女の前には全身血まみれで白い床に倒れている父親と、兄によって宙に浮いている母親の姿があった。名前の呼び声に母の首を片手で掴んで持ち上げていた兄がゆっくりとこちらを向く。
「ああ、名前。冗談だよ。」
にっこりと笑う兄の顔は、べっとりと血がついていた。ただし先程の血糊とは異なるものだと母の言葉に気づく。
「…名前…逃げ、なさい。」
『ママ…』
あれは兄じゃないと本能的に感じた名前は急いでキッチンにあった包丁を持ち、兄の方へ切先を向ける。
「そんなもので俺が死ぬとでも思っているのか…名前」
そう言い、兄の姿をした者は最も簡単に母の首を捻り、まるで命ある者ではなかったかのように床に投げ捨てた。
『あなたは誰なの?』
「お前の兄だよ。」
『違う!』
徐々に近づいてくる彼に、名前は後退りする。
「よくみろ。お前とそっくりだろ?」
『違う!』
ニヤリとした彼の目は真っ黒に染まっており人間ではないことを示していた。それを見た名前は気持ち悪くなり、キッチンにあったものを何でもいいからと藪から棒に放り投げた。包丁などのキッチン用品や調味料など様々なものを。
「っ…ああああっ!!」
すると突然兄らしき彼は悲鳴をあげ、窓を突き破り消え去ったのだ。
残ったのは両親だったものと、きれいに飾られた部屋。
『ママ…パパ…』
途方に暮れた名前はその場に座り込み、ただ呆然にその残虐な景色を見ることしかできなかった。

どれくらいの時間が経ったのかわからないが、外の嵐はやむことを知らず、未だに雨は降り続けている。すると、インターホンが鳴り響いた。しかし、今の名前には判断することができずにいた。しばらくすると、玄関から2人の男がずぶ濡れになりながら入ってきた。1人は青いキャップを被り、無精髭を生やした中年男性。もう1人は黒髪で無口そうな表情をした中年男性だ。
「おい、嬢ちゃん。大丈夫か?!」
「ボビー。」
ボビーと呼ばれたキャップを被った男性が名前に近づこうとしたところ、もう1人の男性に止められた。そして黒髪の男性は懐から取り出したボトルをあけ、一気に中身を座り込んだままの名前にぶちまけた。
『っ冷たっ!』
「取り憑かれてはないそうだな。何があったか話せるか?」
言ったところで信じてもらえないだろう。おそらく兄が犯人に仕立て上げられる。
『…言えない。』
「大丈夫だ。俺たちは全部信じるから。」
黒髪の男性はしゃがみ込み、名前と同じ目線にし話しかけてきた。一見とても怖そうな人ではあるが、実際は優しいのだろうと感じる雰囲気がある。それを見かねた名前は淡々と先程あった出来事を2人に話し始めた。兄が両親を殺したこと、兄の目は黒く本当の兄ではないと本能的に感じたこと…全てを話した。
 聞き終えた2人は黙りこくっていたが、ボビーの方が話し始めた。
「俺たちはお前の兄さんに取り憑いたような悪魔や怪物を退治しているハンターだ。」
『ハンター?』
「そうだ。兄さんの目が真っ黒だったって言っただろ?それは悪魔に取り憑かれている証拠さ。お前さんにあった時、水をかけたがあれは聖水だ。悪魔に取り憑かれていないか確認したんだ。」
『悪魔?』
聞き慣れない言葉に名前は聞き返す。
「ああ。窓の縁に硫黄もあったから確実だ。」
いつのまにか家を捜索した黒髪の男性が言った。
『じゃあ、私の家族は悪魔に殺されたの?』
ボビーという男性にそう問いかける少女はもう泣いてはいなかった。
「そうだ。」
『取り憑かれたお兄ちゃんも苦しんでるの?』
「…ああ。」
言葉を少し詰まらせてはいたが、事実だけを述べていると感じた。
そうか、私の家族は悪魔によって消されたんだと淡々と心の中にすとんと入り込んできた。なぜ、殺されなくてはなかったのか。なぜ、私の家族だったのか。なぜ、兄に取り憑いたのか。なぜ、私は殺されなかったのか。
考えれば考えるほど、悪魔という存在がいることに恐怖を覚えるよりも怒りが込み上げてきた。
「あとは俺たちが片付ける。君は何があったかわからないふりをできるか?」
黒髪の男性が母の両脇を抱えながらそう言った。
『…できない。』
「え?」
黒髪の男性は、名前がうなづくとでも思っていたのだろう。思いがけない返事が来たことに驚いた。
名前の悪魔に対する思いは強く、決意は固まっていた。

『私をハンターにしてほしい。』
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ