短篇
□扉の向こう、きらめくは
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部屋の主からの入室許可の声と共に部屋に進み入った少女。
その少女、サクラの最初の一言はこれだった。
「……なにやってんの?」
シュコーと言う独特な音と共に、至極呆れたような響きを持ったくぐもった声。
その言葉の主である結界に包まれた上にガスマスク装着済のサクラ。
白衣の青年が、振り返る。
首元で結われた背中まで流れる黒髪が、白衣が、動きに伴いゆるりと舞う様を目で追う。
視界の中央にサクラの姿を置くと、その青年は不思議だと顔にだしながら言った。
「薬の調合…」
当たり前のように言うその手には、思わず目を反らしたくなるような極彩色の液体。
毒々しいその色に何も言えず、少女が目をそらすと、銀フレームの眼鏡をくいっとあげて、青年はまたも実験台に向き直ってしまった。
背中から垣間見える彼の表情は、好奇心旺盛な子供の瞳を思いださせながらもどこか真剣に、張りつめた空気をまとう。
やり過ぎだと思えるほど均整のとれた麗しいその顔に浮かばれた笑みは、変化の術の成せる技と知りながらも、ため息がでそうになるほど美しい。
その片手の試験管がなければ、思わず見とれてしまいそうなほど。
そしてそれがあるために、少女は口を開く。
「シカマル」
「なんだ」
本名を呼べば、振り向きはしないものの返事だけは返ってくる。
「異臭と有害物質の散布で、近隣の部屋から苦情がきてるわ」
実験台と向き合う背中に呼びかけるも、曖昧な返事が返ってくるだけ。
やはり、振り向かない。
だからといって、その背に触れることは、恐ろしくてできない。
「ねえ…何つくってるの?」
恐る恐る尋ねるも、簡潔に薬、としか返さない背中。
その背中と、実験台に並べられた品々を眺めながら、どうやって止めさせるか頭の中で必死に考える。