短篇
□残念ながらベタ惚れ
1ページ/1ページ
背中をまるめ、緑茶を片手に本をじっと読むその背後から、そっと、一歩ずつ近づいていく。
そんな私の様子に気づいているだろうと、わかっていながらも、気配を消してそっと近づく。
「シーカーマール!」
背中に思いっきり抱きついた。首にそっと手をまわして、体をくっつけて。
でも彼はただ、手に持っていた湯飲みを両手で静かに支えて溢れるのを防ぐ。ただ、それだけ。
振り返るとか、声をかけるとか、何にもない。
「シカマルっ!」
もう一度名前を呼ぶ。
あーと曖昧な声をかえしたものの、将棋の本に視線を固定したまま静かに緑茶をすする。
「詰め将棋…これまたジジくさいものを……」
「………いいだろ、別に」
漸く答えてくれた言葉がそれなんて。
ちょっとむくれて見せると、気づいた彼は、こちらに顔を向けてくれた。
「どーしたよ」
その一言だけ、だったけど、嬉しくなって思わず笑顔になった。
「かまって」
ぴたっと止まった動き。
表情に変化はなくて、少し考えたようすで、そっと緑茶を置いた。
「かまえ、っつわれてもな…」
頭をかいて、少し眉をよせながら困った表情をしているから、シカマルの肩越しに身をのりだしてそっと口づけた。
「シカマル」
甘くなってしまった声。
名前を呼んだら、そっと笑ってくれた。
「サクラ……」
仕方ないな、という風に息をはいて口付けてくれた彼に、しがみつくと腕をはがされ、シカマルがこちらに向き直った。
でも、唇ははなしてくれない。
どんどん深くなっていくそれと同時に、抱きしめられる体。
されるがままにしていたら、服の中に入りこんできた手。
「んっ……ちょっと、」
「んだよ」
シカマルの腕をはがしたら少し不機嫌そうな顔。
「こんなとこでやめなさいよ」
「お前が言ってきたんだろ?」
意地悪な言葉。でもつい顔を赤くしてしまって、調子づいて更に服に手をかけようとするのを止める。
「ちょっと!」
「奥行くか?」
その視線に、動きを縛られた。
「バカ………」
「…そんな顔で、言われてもな」
意地悪く笑うシカマルを、私は見上げることしかできなかった。
(090811)
どうだろう、こんなバカップル
( 確かに恋だった 様より題拝借)