シリアス/→サクラ)



ただ、たち尽くすだけだった。

先程までは幾人かの人間がここに、この場所に群れ、泣き、叫び、怒り悲しんでいたのが、時がたつにつれ一人またひとりと減っていき、今は数えるほどしかいない。


たった一枚の紙っぺら。
一片の言葉。
それが伝えた情報は重すぎた。

だが情報としてだけでなく実際に事実を目にしている者には、尚更重くて感じられるのだろうと、その背をみて思った。


その背は、震えていた。


手を伸ばしてもふれられない。口を開いても、名を呼ぶことはできない。
目の前の闇は、おもすぎる。



「泣かないって約束したの」

突然、彼女が口をひらいた。
自身に言い聞かせるように、静かで平坦な声。
そこに常の穏やかな響きはない。


「最期に、約束させられたの」

少しづつ、暗く低くなっていく声。
その声に何も言えなかった。


「笑えって言うから笑ったわ」

ゆっくりと、こちらを振り向いた彼女。
哀しく歪んだ笑い顔だった。


「ひどいわよね」

彼女の顔がぶれて、死人の顔と重なった。


樹と雲の陰と、こぼれてきた雫にかくれて彼女はうつ向いていた。





(2009/09)


皆様の一言が活力



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ