文
□欲しいもの
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相変わらず静けさが城を包んでいた。
その静けさとは裏腹に光秀は高ぶっていた。
静かに興奮を抑えきれずにいた。
竜の右目を手に掛け、更に今度はその竜をも手に掛けようと足早になっていた。
政宗の部屋の前まで行き静かに障子に手を掛ける。
しかしその時かたり、と音がしてしまった。
「…小十郎?」
部屋の中の人物は少し不安そうな声色をしていた。
光秀はその声色に興奮した。
そのまま部屋に入り後ろ手で障子を閉める。
政宗のすぐ側まで行き起きようとしている政宗を優しく布団へ押し戻す。
「…光秀…?」
そこでようやく政宗は小十郎ではなく部屋に来たのは光秀だということに気付いた。
「何しに来た」
さっきの恐れていたような声色はどこかへ去り、またいつも通りのぶっきらぼうな物言いに変わった。
「詫びに…参りました」
「なんのだよ」
「あなたのご機嫌を損ねてしまいましたので…」
「…うるせぇな…いいから部屋に戻…」
れ、と言い掛ける政宗の首を光秀が上から押さえ付けるように思い切り絞めた。
「…ぐ…っ」
喉を思い切り押し潰される感覚に政宗は必死に光秀の手と自分の首の隙間に手を入れようともがくが許されるはずはなかった。
「そんなに私に構って欲しかったのですか?あなたには片倉殿も居るというのになんと欲張りなんでしょうね」
「…ちが…う…」
必死に否定する政宗に尚も力を掛けながら光秀は続ける。
「違いませんよねぇ?だったらなぜあのようなことをしたのですか?…答えてくださいよ…答えなさい!!」
「…がッ…う…うる…せぇんだよ…この…ッ」
そう言うと政宗は思い切り光秀の腕に爪を立て下に引いた。
「…ッ!!!!」
あまりの痛みに光秀が手を緩めると政宗は思い切り光秀の腹を蹴り間合いを取った。
「…はぁっ…は…っ」
部屋の隅で息を整える政宗に光秀はゆらりと起き上がり「痛いですねぇ」と言った。
息を整えきれない政宗の視線が、ある方向に向けられたのを見逃さずに光秀は政宗よりも少し速く枕元の刀を取った。
「おっと…残念でしたねぇ…さて」
その刀を鞘からゆっくりと抜きながら光秀は言った。
「そんなに遊んで欲しいのなら遊んで差し上げますよ…何をして遊びますか?」
政宗との距離を詰める。
「かくれんぼ?…それとも鬼ごっこですか?」
片手に持っている鞘を落とす。
「どちらにせよ私が鬼であなたが逃げられればの話ですが…ねッ!!」
言いながら光秀はその手に持つ刀を思い切り政宗の足に振り下ろした。
「ぅあ…ッ…!!」
畳に血が飛んだ。
「おやおや…足を怪我してしまったのですか?…それでは逃げられませんねぇ」
光秀は自分が付けた政宗の傷と刀に付いた血を交互に眺め満足そうに目を細めた。
「…な……にが目的なんだよ…」
苦痛に顔を歪め問う政宗を見下ろしながら光秀は言った。
「目的…?可笑しなことを仰いますね…ただあなたと遊んでいるだけですよ…」
そして光秀は持っていた刀を政宗の腹に軽く当てて言った。
「もしくは…あなたの内臓の様子を見てみたいだけですよ…」
それにはさすがの政宗も言葉を失った。