□欲しいもの
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いつだって
造っては壊し
壊しては造り…

その繰り返し

物にしても関係にしても…ね…



ねえ、独眼竜…

私は壊す側なのでしょうか?

それとも壊される側…?


教えてください







ほぼ習慣になったようにこの日も光秀は政宗の城に呼ばれていた。


目の前では光秀を招いておきながら光秀には目もくれずに夕餉を食している政宗。

こんなことはいつものことなので光秀は特に気にもせずに政宗の前に座してただ俯いていた。


独眼竜はなぜ自分を呼ぶのだろうか…
光秀はいつもいつもそう考えたが考えたところで答えは出ず
当人に聞いてみたかったが聞けるような雰囲気でもなかったので諦めていた。


いつも政宗の隣に居る家臣の片倉小十郎にでも聞いてみようか…それはもっと無理な話だった。



そんなことをぼうっと考えていた光秀に声が掛かる。


「おい」


ぶっきらぼうに呼ぶその声に顔を上げれば政宗は手招きをした。

「お前にも少し分けてやるよ…こっち来い」


その言葉に小十郎が少し眉をひそめるのを光秀は見逃さなかった。

「ですが独眼竜…それはあなたのために用意された膳ですので…私が手を付けるわけには…」

「俺がいいっつってんだからいいんだよ早く来いよ」

光秀が遠慮するも政宗は早く来るように語気を強めた。


「…はい…独眼竜…あなたがそう仰るのなら」


光秀はそう答え政宗のすぐ前まで行くと「手ぇ出せ」と言われた。

言われるがままに両の手を政宗の前に差し出すと煮魚の背骨が置かれた。

「……ッ」

煮魚の汁のベタベタした感じと度を越した嫌がらせに光秀は腹の底が熱くなった。
しかし目の前の人を怒るわけにもいかずただ黙って手のひらの上の骨を見つめていた。

小十郎はと言えばそんな主君を叱咤するわけでもなくただ眉間に皺を深く刻み込み目を閉じているだけだった。


「なんだよ、食わねぇのか?」

手のひらに骨を置くだけでは飽き足らず食すように促す政宗に光秀は従うより他なかった。

なぜそこまでするのか…
自分でも分からなかったが気付いた時にはその骨を口に運んでいた。


「…美味しい…です…」



さすがに噛み砕くことは出来ずに骨は口の中にとどめたままだった。

そして光秀は自分の手のひらについた煮魚の汁を舐めて見せた。


「……もういい。おい小十郎、膳を下げさせろ。俺は寝る」


それだけ言い残し政宗はその部屋を出て行った。

政宗の足音が完全になくなったのを見計らい光秀は口の中にあった魚の骨を出した。

それを見た小十郎は光秀に声を掛けた。


「…明智…悪ぃな…」


その意外な言葉に顔を上げると小十郎は少し困ったように笑っていた。


「いえ…気にしていませんよ…あの…そのお料理捨ててしまうのでしたら私が頂いてもよろしいでしょうか…?」

光秀がそう言うと小十郎は少し驚いたような表情をしていたが「お前がそうしたいならかまわねぇよ」とだけ言った。

そして箸を持ちその政宗の食べ残した膳に手を付けようとした瞬間

政宗が物凄い勢いで部屋に入ってき、光秀が手を付けようとしているその膳を光秀に向かって蹴り飛ばした。

「政宗様!!!!」

それまでは黙って見過ごしていた小十郎だったがさすがに止めに入った。

「政宗様……ここは…この小十郎に免じて許してやってくれませんか?!」

小十郎は光秀の前に立ち政宗に頭を下げた。

「…うるせぇな俺はそいつに用があんだよ。お前は引っ込んでろ」

そう語気を強め言う政宗の隻眼は光秀にだけ向けられていた。

一方の光秀といえば味噌汁を頭からかぶったために汁の滴る髪のままただ目の前の竜の右目の大きな背中を見つめていた。

そしてしばらくしてか細い声で言った。

「…ど…どくがんりゅう…私が悪かったんです…申し訳…ありません…」

そして政宗の足下のすぐ側まで行き跪いて許しを請うた。

その態度を政宗は鼻で笑い今度は光秀の頭を思い切り蹴り飛ばした。



ふと目の前の独眼竜の足が視界から消え
次の瞬間顔面に強烈な衝撃が走った。

しばらく耳鳴りがした。
そこでようやく自分は独眼竜に蹴られたのだと理解した。

遠くで片倉殿が独眼竜に何か言っているのをぼんやりとした視界の中に見た。

口の中が切れたようで血の味がする。

まだ視界がぼんやりしている。
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