□欲しいもの
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片倉殿は独眼竜を抑えてどこかへ連れて行った…きっと独眼竜の自室へ連れて行ったのだろう……さて。



しばらくして小十郎が光秀の居る部屋に戻って来ると光秀が散らかった食器を片付けているところだった。

「明智……お前大丈夫か?」

「私なら問題ありませんよ…それより独眼竜はよろしいのですか?貴方が私と話していてはまたへそを曲げてしまいますよ」

「…政宗様なら大丈夫だ。それより湯の用意をしてあるから入ってくるといい」

「それはそれは…私ごときに…その様な持て成し痛み入ります」

そう礼を言い、光秀は城の者に連れられ湯に向かった。



「案内ありがとうございました」

光秀がそう言うと案内をした侍女は「い、いえ…」とだけ言った。

その様子を見た光秀は更に続けた。

「…貴女、私のことを知っていますか?」

「あっ…はい…あの…よくいらっしゃるので…」

余所の国の身分の高い者を前にその侍女は緊張した様子だった。

「ならば話は早いですね…どうでしょう、ご一緒に」

「え…っ…あの…?」


光秀の信じられない一言に侍女は目を丸くして驚き頬を赤らめた。

「大丈夫です…見ている者は誰も居ません」

近付き耳元で囁けば侍女は光秀に従うしか術はなかった。


中に入り光秀は侍女に後ろを向くよう命じた。
勿論侍女はそれに応じた。
それから光秀は侍女の両手を後ろ手に取り呟いた。

「さようなら」


片手で後ろ手に取った両手を一つに纏め空いたもう片方の手で侍女の後頭部を押さえそのまま勢い良く湯船へ押し込んだ。

バシャッと一つ音を立て抵抗すら許されない侍女はそのまま顔面から湯船に突っ込む。
気付いたように足をばたつかせようとしたが光秀に後ろから抱え込まれ身動き一つ取れない。

「なんて可哀想な人…貴女このまま死んでしまいますねぇ…どうしましょう?どうしましょうか?!」

恍惚とした表情を浮かべていた光秀だが程なくして大きな気泡が一つ湯船に浮かぶと我に返った。

「…終わり、ですか……残念です」

そして侍女を押さえていた全ての拘束を解いた。

侍女はといえば既に動かなくなっていた。


それから光秀は侍女をそのままにして桶で湯船から湯を汲み、着物を着ているにも拘らず頭からそれをかぶった。

「ああ…さっぱりしました…右目殿にはお礼をしなくてはなりませんねぇ…」


そう呟き光秀はそのまま静まり返った城の廊下を音もなく水を滴らせながら歩き小十郎の部屋を目指した。


その頃の小十郎は布団に入っていたが寝付けないでいた。
天井を見つめ先程の光秀のことを思い出していた。


近頃の政宗様の明智に対する嫌がらせは酷くなるばかりだ。
この間は確か…あいつが無抵抗なのをいいことに俺がお止めするまで蹲るあいつの腹を蹴り続けていた。

あいつもこの城に来たら何されるか分かってるだろうに…なのに断らねぇ…一体何考えてやがる…。


しかし小十郎の思考はそこで遮断される。

考えていた人物が目の前に現われたのだ。


「片倉殿…先程は湯をありがとうございました…ありがたく頂きましたよ」

「そうかそりゃあ良かったな。で、なんでお前はびしょ濡れでしかもなんで俺の上に乗ってやがんだ?」


不可解極まりない状況に小十郎は冷静に光秀に問い掛けた。

しかし当の光秀本人はというと特に気にもせずに話を続けた。


「片倉殿は本当にお優しいお方だ…だから…死んでください」
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