季節小説
□願い事
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「何ですか、これ?」
いつものように侑子さんのお店にアルバイトとして、食事を用意していたところ、細長い紙を2枚渡された。
「あら、四月一日。知らないの?明日が何の日か」
食前酒として冷酒を一口ふくんで、にんまりと主が笑う。
「明日?」
「年に一度の逢瀬の日」
「?」
「織り姫と彦星」
「あ!」
「やっと分かった?」
「はい!明日は七夕ですね」
「その通りよ。で、それは…」
「短冊ですね」
「そうよ。ちょっとしたツテで貰い受けたんだけど、私には必要ないし…かといって、せっかくの日にココに眠らせるのも、可愛そうだから、貸してあげる」
「貸して?
でも短冊って書いたら消せないですよ」
「ふふっ。それは『特別』だから。何度でも書き直せるのよ。
それよりも、どうせなら七夕というロマンチックな夜に好きな人と天体観測でもしたら?
心からの願い事を思い浮かべながら、ね」
「好きな人と…って言ったらやっぱり、ひまわりちゃん!
明日、学校に行ったらさっそく誘ってみますね。
有難うございます、侑子さん」
「そんなに喜んでくれるとは、渡した甲斐があったわ。
それじゃ、おつまみもう一品追加でよろしくぅ〜」
「分かりました〜」
今日のお酒に合いそうな献立を呟きながら、四月一日は台所へと向かう。