黒執事

□夢の使い
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セバスチャンとシエルが屋敷に戻って一年が経った。
シエルはあれ以来食事も睡眠も充分取れるようになり、
ファントム社の経営も軌道にのっていた。

日々の勉学の見返りにシエルはセバスチャンに『一日、一スウィーツ』を約束させ、
平和で穏やかな日々を取り戻していた。



「坊ちゃん、そろそろお勉強の…」


ノックをしてシエルの執務室へ入ったセバスチャンは
スウィーツを食べかけで、口にフォークを咥えて眠るシエルを見て静かに近付く。
起こさないように、そっとフォークを抜き取る。


「………全く」


無防備な寝姿にシエルの心の回復を感じるが、
いつフォークが喉に刺さるかと冷や冷やさせられる。
薄く開いた桃色の唇と、その端に残った生クリームを、
セバスチャンは赤い舌で舐めとる。


「んっ……」


シエルの口から色のついた吐息が漏れる。


「そろそろ…ですか」


セバスチャンは満足気に目を細めると、
シエルの耳元で何やら言葉を吹き込む。


「…っふぁ!!」


シエルは顔を紅潮させてのけ反る。
ニヤリと口の端をつり上げたセバスチャンは、
白い手袋をした両手を、高く打ち鳴らす。


「うわぁっ!?」


飛び起きたシエルは、椅子から落ちそうになったところを支えられる。


「セバスチャン!お前…他に、起こし方はないのか?」


心底不機嫌そうに睨み付ける。


「坊ちゃん、今寝ていた分の特別授業を今夜から、
私が担当致しますので、覚悟しておいてくださいね。」


にっこりと笑ってシエルを椅子へ戻す。


「夜に特別授業って…僕は聞いてないぞ!!」


「ええ。今、決めましたから。」


「なっ……」


「坊ちゃん、本格的な社交界デビューも控えていることですし
、色々と、お勉強すべきことは、増えてきますので!」


凄みをきかせた笑顔で近寄ると、シエルは辟易した顔で溜め息を吐く。


「〜っ、わかった。やればいいんだろう、やれば!」


「…その言葉を、しかと聞きましたからね?」


咳払いをする口元が笑いを噛み殺す様に歪んでいた。





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