幸せの軌跡

□第9話 アンノウン
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知らない顔で


知らない話をする


君はダレ?



 幸せの軌跡
  第9話
―アンノウン―



「ふふふふふーんふふ♪」

鼻歌をうたいながら、軽い足取りで階段を上がる。
手には仕事用の鞄の他に、ユーリの大好きなケーキ。
今日はおっさんの"気付いちゃった記念日"だからね。
ユーリ君と一緒にお祝いするのよ。
我ながらいい考え。
これでぐっと距離を縮められたら万々歳でしょ。

そんなわけで、ウキウキ気分でユーリの部屋の前に立ち、インターフォンを鳴らす。

――ピーンポーン

聞き慣れた呼び出し音が鳴り、少しの間をおいてドアが開く。

「はい?」
「こんばんは〜……ってあれ?」

ドアの隙間からひょいと顔を出したユーリに、なぜかふと違和感を感じて。
そっと扉の奥に視線をやると、そこには、見覚えのない、きれいに揃えられた靴。
そして、微かに、人のいる気配。

「誰か…いるの?」
「あぁ、ちょっと、友達がな」
「あ、そうなんだ」

聞くとユーリはなぜかちょっと照れたように答えた。
そうだよね、ユーリにだって友達くらいいる。
むしろ今までこういうことがなかったことのほうが不思議なくらいで。

「なんか用だったのか?」
「あ、いや、暇だったら一緒に飲もうかな〜って思っただけ。忙しいならいいのよ」

少し申し訳なさそうに首を傾げたユーリに、大丈夫だと告げる。
手に持っていた箱は、そっと死角に隠して。

「ユーリ?」

一拍おいて、奥からひょいと顔を出したのは金髪の青年。
呼ばれたユーリは一度振り返り、もう戻るから引っ込んでろ、と小さく呟いて追い払うような仕草をする。
そして、もう一度こっちに体を向けて、

「悪ぃな、おっさん」
「ううん、じゃ、また」

片目をつぶって軽く頭を下げた。
その仕草はどこか悪戯をした子供のようで。
そんなユーリを安心させるように笑って、こっちからドアを閉めた。

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