リクエスト
□毎日がデート
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その5分後。
なぜかおっさんはすこぶる上機嫌だ。
スキップまでしてやがる。
さっきまでのダルそうな表情が嘘のよう。
何か裏があるのか?
そんな疑念が沸き上がってきて、オレは無意識におっさんを見つめていたらしく、ばちり、と目が合った。
「なぁに、ゆーりん?」
「……は?」
オレの耳はおかしくなったのか?
今、何か聞こえては行けない単語が聞こえた気がする。
「いや、なんでもない。なんでもないんだ、マジで」
ダメだ、これは関わらない方がいい。
そう直感が告げている。
オレは全力で目を反らし、足を速めた。
「ちょ、スルーしないでよ!なんでもなくないっしょ!?」
が、もちろんそれで"はい、おしまい"なんてわけにはいかない。
でかい声をあげたおっさんは、逃げるオレの左腕にすばやくすがりついてきやがった。
「可愛くていいじゃん"ゆーりん"♪」
「いいわけあるかっ」
このおっさんと二人で歩くことがこんなに疲れるとは…。
ただ話ながら歩いてるだけなのに、異常なまでの疲労感に襲われていた。
「じゃあ、ゆーたんとか?」
「なんでだよ…」
怒鳴る体力すら無駄な気がしてきた。
大体、いきなり何を言い出すのか、そこからすでにおかしい。
「ただちょっと自分だけの親しげな呼び方があったらいいな〜って…思っただけなのに」
いや、そこでそんなしょんぼりされてもな。
そんなに怒らなくてもいいのに〜、と口を尖らせるおっさんは、やっぱりウザい。
「ジュディスちゃんとかエステル嬢ちゃんのことはあだ名で呼ぶくせに〜」
その流れなら普通『おっさんにもあだ名つけて』じゃないのか?
おっさんの思考回路は相変わらず全然読めなかった。
「はいはい、もう何でもいいから買い出しするぞ」
「えー、ひ〜ど〜い〜」
おっさんはまだしつこく駄々をこねていたが、もうほっとくことにした。
こんなのに付き合ってたら、いつまで経っても帰れない。
さぁ、買うもん買って早く戻ろう。
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