幸せの軌跡

□第1話 俺たちの序曲
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その様子を見て、やっと事態を把握した。
そういや、新しい人が入るとかって誰かが言ってたっけ。
すっかり忘れてたなぁ。

とりあえず、ここはひとつお近づきになっておこうかな。
ってことで、すぐには部屋に入らずそのまま待機。
自室のドアに背中を預けて彼を待って。

「俺、レイヴン。よろしく〜」

また別の箱を取りに外へ出てきた青年に声をかける。
すると彼は、俺がまだそこにいたことに驚いたのか、一度目を見開いて。

「…ユーリ、です。よろしくお願いします」

持ち上げかけた段ボールをわざわざ下ろしてから、改めてぺこりと頭を下げた。
"ユーリ君"ね、よし、覚えた。
はじめてはっきりと聞いた声も、すっと頭に入ってきて、簡単には忘れそうにない。

「あー、いいよいいよ、そんな丁寧な言葉使わなくて」
「そう、ですか?」
「もっちろん」

仲良くなるにはまずそういうとこから距離を縮めてかないとね。
礼儀正しいのはいいことだけどさ。
少し困った顔をするユーリに笑顔を向けると。

「じゃあ……よろしくな、レイヴン」

そう言って、ふわり、と笑ったユーリ。
その予想以上に綺麗な笑顔に、心臓を鷲掴みにされた気分だった。
ただ、自分の名前を呼ばれただけなのに、なんか、胸の奥がバカみたいに熱くなって。

「そうそう、そんな感じ」

そんな動揺を気取られないように、今まで以上にフランクに接する。
ぽん、と肩に手を置くとちょっとびっくりしたみたいだったけど、拒否はされなかった。
多少ぶっきらぼうながらも、質問にはちゃんと答えてくれる。
うん、いい子じゃない。

「ユーリ君は…学生さんかな?」
「ああ、大学。今年三年」

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