幸せの軌跡

□第10話 謎の視線
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これでも足にはそれなりに自信がある。
それなのに男はそれを上回る速さで追いかけてきていた。
瞬く間にぐんぐんと距離が詰まる。
そして、ヤツの手がオレの服に伸びて。

「どぅわ!?」

服の裾を掴み、ぐんっと引っ張られた結果。
びたん!!と痛々しい音を立ててオレはアスファルトに手をついた。
顔面から突っ込んで冷たい地面とキスする羽目にならなかっただけマシだった。
手のひらがじんじんと痺れている。

「おにごっこ〜?」
「お兄ちゃんだいじょぶ〜?」

たまたま近くにいた小学生が寄ってきて、笑っていた。
そりゃあ、大の男が二人、道の真ん中でもつれ合って倒れ込んでりゃ目立ちもするよな。

「は、はは…大丈夫、大丈夫」

なんとか笑顔を作って返事をして、その子たちを遠ざける。
その間も例の男はオレの上で、マウントポジションを取ってやったとばかりに何か誇らしげに言っているが、やっぱり右から左に流れていた。

「って、ユーリ?…何、してんの?」

そんなおぼろ気な意識の中、覚えのある声が聞こえた気がして、顔を上げると、レイヴンがポカンとした顔で立っていた。

「お、おっさん…!」

そして、今のオレには、おっさんでさえ救世主に見えた。
しがみついて離れようとしないヤツの手をなんとか払い、おっさんに手を伸ばす。

「なんでもいい!とりあえず今は助けてくれ!」

いきなりのことにおっさんは目を瞬かせたが、この異常な状況を察してくれたらしく、すぐにオレの手を取った。
そして、ヤツを驚くべき力で引き剥がし、オレの手を握ったおっさんは一目散に走り出した。
想像以上の速さでぐんぐんオレを引っ張っていく。

「ユーリ!」

が、やっぱりアイツは追ってくるわけで。

「ちょ、はやっ!」

あまりのことに半笑いになりながらおっさんは走っていく。
だが、そう言う割りに軽いステップでひょいひょいと路地から路地へと入り、気がつけば、ヤツの姿は見えなくなっていた。

壁に身を寄せて、二人して深く息をつく。
しばらくして、おっさんに抱き締められるような体勢になっていたことに気づき、反射的に体を押した。

「おっさん、近い」
「あら、ごめんなさいね〜」

助けてもらったのにこんな態度で気を悪くさせたかと思ったが、おっさんはへらっと笑ってすぐに離れる。
なんだ、この違和感。

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