幸せの軌跡

□第12話 先生あのね
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「えー、なんでため息なのー」
「べっつに」

不服そうに唇を尖らせるその様子はとてもエリート高校の教師には見えない。
だけど、このおっさん、レイヴンはたしかに教師だ。
一度見かけた、生徒たちと接している姿、生徒たちを思う姿は本物で。
そんな様子を思い出し、つい、まじまじとおっさんの顔を見てしまう。

「なに?」

そんなオレの視線に気付いたおっさんは、ふわりと笑ってオレを見た。
時折見せる、そんな優しげな大人の表情は、オレの中にある何かを引き出す力があって。

「なぁ、聞いてもいいか?」
「なになに?おっさんに何でも言ってごらんなさい?」

ちょっと茶化すように、胸を張るおっさんはこの際スルーしよう。

「……おっさんはさ、なんで教師になったんだ?」

どう見ても、向いている、というタイプの職業じゃない。
これは前々から興味があったことだ。
だから真面目に聞いたのに。

「もしかして…」
「な、なんだよ」

なぜか向けられる、期待に満ちた瞳。
もう言いたいことを推察されてしまったのかと、内心焦って

「ユーリ君ってばおっさんのことがき」
「死ねよ」

人が真面目なこと話してるときにこのおっさんは!
空気を読む、という言葉自体がコイツの辞書には存在しないらしい。

「嘘、嘘ですごめんなさい」

鋭く睨んで冷たく言い放つと、さすがに怯んだらしく、すぐに泣きそうになりながら謝ってきた。
謝るのはいいけど、食器はひっくり返すなよ。

「で?」

そして、そのまま軽く見下すような目を向け、改めて答えを促す。

「なんでって…」

レイヴンは、少し考えるように、顎に手を当てた。
そして、

「好きなことをしたかったからじゃない?」

首を傾げてそう答えた。
なんてアバウトな。
それじゃあまるで参考にならない。
というか、オレの質問に対する答えになっていないような。

「それは子供が好きってことか?」
「それもある」
「他には?」
「うん、ほら、先生って知りたいこと、探求できるでしょ」

確かに、誰かに人に何かを教えるためには、自分も更に知識をつけていく必要がある。

「実際、子供たちと一緒になっていろんなもの見るの、楽しいのよね」

それは確かに教師の特権ってやつなのかもしれないな。
で、えーっと、話をまとめると、だ。
専門にしてる科目が好きで、子供も好きで、それをまとめて身近におけるのが教師だったから、ってことなんだろうか。
結論を出そうとしていると、おっさんがこれでいい?と聞いてきて顔を上げる。

と、なぜかおっさんはニヤリ、と笑っていた。

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