幸せの軌跡

□第13話 無防備は罪
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「ユーリ!?」

驚いて顔を近づけると、小さな寝息が聞こえる。

「ユーリ、ユーリ?」

名前を呼びながら軽く揺すってみても、起きる気配はない。
もうすでに熟睡モードらしい。
だから早くベッド行けって言ったのに。

というか、もしかしてちょっとばかし飲ませすぎた?
そういえば、よく考えたら前もあんまり飲んでなかったような。
実はあんまり得意じゃないのかもしれない。
特に今日のは強かったからなぁ。
ダメならダメって言えばいいのに。
それを言わないのが青年らしいんだけど。

「ユーリ君?」

もう一度、呼びかけて体を揺すってみたけど、やっぱり反応はない。
規則正しい寝息が聞こえるだけ。
いつも呆れたように俺を見る瞳は伏せられて、男にしては長い睫毛が僅かに震える。
酒のせいで赤みを帯びた頬にかかる長い黒髪は、更にユーリを妖艶に見せていて。
否が応でも、胸が高鳴ってしまう。

しかも、目の前には晒されているのは、無防備な寝顔。
なんとか踏みとどまってヘンな気を起こさないまでも。
つい悪戯の1つくらいしたくなっちゃうものよ。

「ユーリく〜ん?」

横に寄り添うように転がって、小さく名前を呼んでほっぺたをつつくと、ふにっとした感触が指に伝わる。
それが気持ちよくて、調子に乗って何度も繰り返していると、

「ん…」

ふいにユーリは小さく声を漏らして寝返りを打つ。

「え?」

ふっと、目の前を遮る影。
振り下ろされる腕。

「どぅわあぁぁっ!?」

それは一瞬の出来事だった。
その衝撃に一瞬瞑った目を、恐る恐る開けると、眼前に広がる一面の黒。
ずしりと体全体にかかる重み。
それが何であるかなんて、考える必要もない。
俺様は今、ユーリ君の下敷きになっていた。

って、ちょ、ちょっと待って!
こ、これは…その、なんていうか、ヤバイって!

密着する肌から伝わる体温と鼓動。
それは自然にこっちの体温もぐんと引き上げる。

いつかこんな風にくっつけたらいいなとは思っていたけども。
でも、急すぎる、というか、一方的すぎるというか。
おっさんとしては、これからゆっくり、もっと青年のことを知って、でおっさんのことも好きになってもらうようにしようって決めたばっかりで。
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

だけど、そんな風に焦る俺に気づくことはなく、ユーリ本人はすやすやと寝息を立てている。
ときどき首辺りにかかる息がくすぐったい。

「〜〜っも、ユーリく〜ん!」

理性が崩壊する前になんとか体勢を立て直そうと、腰に手を回してみると、想像以上の細さにどきりとさせられる。
ホントにちゃんと食べてるのかしら。
ちょっと心配にな…じゃなくって!

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