幸せの軌跡

□第13話 無防備は罪
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「ね、ちょっと、ユーリ君ってば!」

耳元で少し声を張って呼びかけてみたけど、相変わらずユーリは夢の中。
なんでここまでして起きないのよ〜!?

出逢った頃の警戒心むき出しな態度が嘘のよう。
信頼されている証と取ればいいのかな。
でも、それと同時に少し寂しくもある。
結局はただの隣のおっさんとしか思われてない証拠だもの。
当然っちゃ当然だけど。

けどさ、そんなに安心しちゃ、ダメだよ。
俺はもっと別のものを求めてるんだから。
目の前の黒髪に指を入れると、それはさらりと流れて。
くるりと指に巻き付けてみても、やっぱり起きない。
いっそこのまま…

って、ダメダメ!!

煩悩を振り払い、ぐっと力を込めて肩を押すと、特に抵抗もなくユーリの体はも
との位置へと戻っていった。

「や、やっと抜けられた…」

どうしてこんな息も絶え絶えにならなきゃいけないのか。
気持ちよさそうに眠り続けるユーリを、ちょっとだけ恨めしく思う。
かと言ってこのままほったらかしにもできないから、運んであげようと首の下に手を入れた、そのとき。

ふと、目に止まる、赤く色づいた唇。

「ユー、リ…」

それはまるで俺を呼んでいるみたいに、綺麗で。
強い魔力に引き寄せられるように、そこに手を伸ばし、そっと指でなぞる。
柔らかい感触が指先に伝わった。

でも、それだけじゃ満足できない。
自分の中でせめぎあう本能と理性。
わかってる、わかってるよ、でも!

「ごめん」

顔を寄せ、ほんの一瞬。
軽く、そこに触れる。
本当に掠めるように、一瞬だけ。
だけど、それだけでも伝わってくるあたたかさに酔ってしまいそうで。

って、やっちゃったよ…俺。
寝込みを襲うような卑怯な真似はしたくなかったのに。
どうしても抗えないほどの色気が青年にはあったわけで。

「って、言い訳カッコ悪!」

またどこかへいってしまいそうな意識を必死に呼び戻して。
未だに起きる様子を一切見せないユーリを抱え上げる。

「んっしょっ、と」

その体は、さっき思ったよりもずっと軽く感じられた。
そっとベッドに下ろしたら、布団をきちんとかけてあげる。
まだ朝と夜は冷えるからね。

「おやすみ、ユーリ」

何も知らない穏やかな寝顔に、そっと呟いて。
これからどう接したらいいのかと、軽く頭を抱えた。



悪いのは無防備な君だけど


誘惑に負けたおっさんを


君は許してくれるかな?



To be Continued...



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